「十一月後半やて? まだ日取りは決まってないんか?」
千雪は京助に聞いた。
「まだだろ。兄貴、スケジュール調整してるが、もういい加減決めてくれねぇとこっちだって予定が立たない」
「やっぱ、パリの結婚式に行くんか?」
「だから来週の食事会のメンツは行かざるを得ないんだよ」
「そもそも何で小夜ねえがお前の兄貴と」
「今さら、知るかよ、俺が!」
八つ当たりする千雪に、面倒くさそうな顔を向ける京助を見て、速水はちょっと肩を竦めた。
二人が幸せであればそれこそ外野の出る幕ではないのだし、千雪には結婚がだめになった研二や浮気者の旦那の子供を産もうとしている江美子のことの方が心配だった。
「せや、披露宴に研二の菓子を使うてもらうことになって」
「へえ、いんじゃね? こっちに来て早々割とでかい仕事になるんじゃないのか?」
「研二って、千雪ちゃんの幼馴染だっけ? 絵に一緒に描かれてた」
細かいことを覚えているな、と千雪は速水を見やる。
「ええ。今度こっちに支店出すことになって」
「パティシエなんだっけ? 彼」
「和菓子職人です」
「パティシエじゃないか」
譲らない速水を千雪は軽く睨む。
「いつだ? 研二の店、オープンは」
京助が聞いた。
「十一月半ばの土曜日とか言うてた。クリスマスの前に」
「和菓子屋もクリスマスやるんだ?」
また速水が余計なことを言う。
「ビル全体がクリスマス仕様になるだけです」
「そう言えば、金魚のフンみたいに君にくっついてた後輩くん、最近一緒にいないね? 何、喧嘩でもした?」
心理学者というだけあって、妙なところに気がつくなと、千雪は速水の食えない顔を見つめた。
「ああ、こないだ同級生らと出かける時にあいつやってきよって、メンドイからばらしてしもたんです。以来、傍に近寄らんようになってせいせいしてますわ」
「あらら。まあ、衝撃的だわな、そりゃ」
速水は含みのある笑みを浮かべた。
何を考えているのかわからない速水より、千雪には食事会に行くのであれば京助に言っておかなければならないことがあった。
だが、速水の前ではあまり口にしたくはない。
「小夜子の両親もいるんだ、お前とのことは何も言わねェから安心しろ」
そう思っていた千雪に腕組みをした京助が急に偉そうな口ぶりで言った。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
