メリーゴーランド91

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「メデタイ席で水を差すようなことはしたくねぇ。小夜子の両親を混乱させるかもしれねぇしな。下手して俺のことを激怒されて小夜子らの話をチャラにされたりできねぇし」
「一応、考えとるんや?」
「てめぇ、人を見くびるなよ?」
「お前、誰彼かまわず言うてしまうし」
「俺がいつ誰彼かまわずだ?」
「んっとに、お前ら、公衆の面前であっけらかんと言い合っているにもかかわらず、誰もそうとは気づかないって、ほんと摩訶不思議だよな?」
 言い争っていた二人は同時に速水を睨み付けた。
 
 
 

 食事会は翌週の土曜日、夕方六時から行われた。
 小夜子は総レース、ノースリーブの薄いベージュのカクテルドレス、両親もブラックスーツと色留袖と略正装でハイヤーで綾小路邸を訪れた。
 千雪もブラックスーツに京助に銀色のタイを結んでもらい、京助の車で向かった。
 眼鏡などをどうするか悩んだ末、面倒なのでやめることにした。
「いんじゃねえか? うちでコスプレなんかする必要ねえだろ。どのみち、藤原や公一は知ってるんだし」
 以前冬に、京助に北海道の山荘に連れて行かれた時、藤原や息子の公一に出迎えられたのだ。
 京助は気楽なことを言うが、理由を聞かれた時の答えを何か用意しておかなくてはと千雪は車の中で考えていた。
 京助も家を出ているので、千雪が綾小路邸に足を踏み入れたのは初めてだった。
 一度京助が千雪を誘ったことはあったが、あまり気が進まなかったので千雪が断って以来、京助は誘おうとしたことはない。
 だから、よもや紫紀と小夜子が結婚することで綾小路の家に行くことになろうとは二人とも思いもよらなかった。
 紫紀ら三兄弟の父親大長はこの年齢にしては背が高く、東洋グループ会長とあって七十代にして毅然とした雰囲気を持っていた。
 妻であり、末の涼の母親である佐保子は穏やかそうな人で、京助に言わせるとほぼ世間を知らないくせに、ボランティア団体の会長などに据えられている、小夜子に輪をかけた人のいいお嬢様だという。
 展覧会のパーティで初めて二人に紹介された時の千雪は、スーツこそ着ていたものの、例によって引っ掻き回したようなくせっけの頭に黒縁メガネをかけていた。

 


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