メリーゴーランド92

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「おや、君は………今日は眼鏡ではないんだね」
 早速大長がパーティの時とは千雪の様子が違うと気づいたようだった。
「あ、はい」
「こうしてみると、小夜子さんとは姉弟のようによく似ているね。メガネをしない方が世の中がよく見えると思うよ」
 面倒な突っ込みはなかったので、つらつら考えていた適当な言い訳を口にしないで済んだ。
 紫紀の息子の大も千雪に興味を持ったようで、何か言いたそうな顔をしていたが、そこは年齢にしては身体も大きく大人びた表情で口を噤んでいた。
 三人は執事の藤原にダイニングルームの長テーブルへと案内された。
 角の席に大長、次の席には小夜子の母正子、紫紀、涼、京助が座り、大長の向かいには小夜子、隣には俊一郎、大長の妻佐保子、千雪、大と座ったが、紫紀とその両親、小夜子とその両親がメインというだけで、順序にはあまり意味はないようだった。
「あくまでもお近づきの印にということだけで、格式ばったものではありませんから、どうぞお気を楽にされてお召し上がりください」
 大長自身がしきたりや因習などが嫌いなたちだと京助が以前話したことがあったのを千雪は思い出した。
 気楽なというが、ソムリエエプロンをしたスタッフによって運ばれてくるコース料理は、今日のために呼ばれた五つ星レストランシェフの手によるもので、藤原に伴われて現れたシェフが挨拶して下がると、ワインも進んで誰もの口も滑らかになって来ていた。
 猛が亡くなってからは息をひそめていたかのようだった本来の明るさが小夜子に戻ると、その微笑みが千雪に母夏緒を思い出させることが度々あった。
 大長がパリに留学していた頃の話を聞くと、小夜子は屈託ない笑顔で楽し気な思い出を話しはじめ、紫紀も混じって和気あいあいとした時間が過ぎて行った。
「それにしても、原夏緒展は実によかったですな」
 原夏緒の展覧会にも話は移り、大長は夏緒の兄である俊一郎に続いて、絵については千雪にいくつか聞いてきた。
「いつも楽しく描いていました。子どもらや犬や身の回りの生き物や花や、生活の中でいろんなモチーフを見つけて」
「そうですか。向日葵と子供たちを描かれたあの絵など、本当に穏やかな幸せに満ちた世界感で、感銘を受けました」
 大長の話し方は千雪のような若い者に対しても丁寧で重みのある口調で、紫紀が年を経るとこんな感じになるのかな、などと千雪に思わせた。
 やがて大長が俊一郎と仕事の話に切り替えた頃、千雪は隣に座っていた紫紀の息子の大に腕を引かれた。

 


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