メリーゴーランド98

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 大長がパリに留学していた頃の話を聞くと、小夜子は屈託ない笑顔で楽し気な思い出を話しはじめ、紫紀も混じって和気あいあいとした時間が過ぎて行った。
「それにしても、原夏緒展は実によかったですな」
 原夏緒の展覧会にも話は移り、大長は夏緒の兄である俊一郎に続いて、絵については千雪にいくつか聞いてきた。
「いつも楽しく描いていました。子どもらや犬や身の回りの生き物や花や、生活の中でいろんなモチーフを見つけて」
「そうですか。向日葵と子供たちを描かれたあの絵など、本当に穏やかな幸せに満ちた世界感で、感銘を受けました」
 大長の話し方は千雪のような若い者に対しても丁寧で重みのある口調で、紫紀が年を経るとこんな感じになるのかな、などと千雪に思わせた。
 やがて大長が俊一郎と仕事の話に切り替えた頃、千雪は隣に座っていた紫紀の息子の大に腕を引かれた。
「あのコスプレって、悪の組織から身を護るための手段なの? コナンみたいに」
 耳元で囁くように質問された千雪は言葉に詰まる。
「え、いや、そんな大それたものやないけど………」
 まさか女の子に追い回されたトラウマで大学デビューしましたなんて、子どもに言えたものではない。
「ほんまは、金田一耕助を目指しとったんやけど」
「金田一耕助、知ってる! 横溝正史の名探偵だよね」
「そら話が早いわ。現実には、着物にハカマは動きにくいし、あんなんに落ち着いた、みたいな?」
「なるほど! おじいさんの弁護士の小説も面白いけど、小林千雪名探偵が活躍する小説って書かないの?」
 そこでまたうっと、千雪は口を噤む。
 大の向かいに座る京助がニヤニヤと鼻で笑っている。
「いやあ、まだ、それは考えてないわ。でも俺の小説読んでくれたんや?」
「もちろん、全部読んだよ。難しい法律の話とかあるけど、あ、御園生弁護士の弟子の海棠って、モデルわかっちゃった」
「ほんまに?」
「だって、女にもてるイケメンで言葉が軽いとかって、京助にい、そのまんまじゃん」
 これには千雪も我が意を得たりと笑う。
「おい、言葉が軽いが何で俺そのまんまなんだ?」
 京助が大に文句を言う。


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