小草生月某日-5

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 我に返った佐久間が大きな声を張り上げたので、さらに千雪は注目の的となってしまった。
 バレンタインだと??!
 ここのところ忙しいばかりで、そんな日があったことも千雪はすっかり忘れていた。
 甘辛に味付けした鶏そぼろの中央には大きくハート型にやはり甘辛の玉子そぼろが敷き詰められ、その上にI LOVE YOUと書かれた文字は炒めたピーマンがきれいな緑色に映えている。
 千雪の好きなものばかりだから、その大きなハートマークさえなければ、すぐにでも箸をつけたいところなのに。
弁当を再び袋に入れて席を立ち、一番近い出口からたったか学食を出て行くまで、千雪には妙に長く感じられたが、実際はほんの数秒だった。
「あ、ちょ、先輩~!! どこいかはるん?!」
 立ち上がった千雪の背中に呼びかけた佐久間は、「でかい声で、何やってるんだ!」という声に振り返った。
「あ、京助先輩! と速水さん、だってずるいんですよ、千雪先輩が!」
 千雪が座っていた席にどっかと腰を降ろした京助は、千雪が飲まずに置いて行った茶をちょっと避けてコンビニ袋を前に置いた。
「名探偵がどうしたって?」
 カツ丼を乗せたトレーを持った速水が、ちょうど佐久間の隣が空いたのでそちらに座る。
「千雪先輩、俺の知らん間に彼女作りはったんです!」
「何と、それは初耳だ! 詳しく聞かせてくれ」
 速水は面白そうに佐久間を見た。
「いや、それがつい今しがた、千雪先輩、俺の目の前で二段重ねの弁当、蓋開けたらでかいハートマークつきの! 先輩方知ったはりました?」
 唾を飛ばしそうな勢いで、佐久間は力説した。
「なるほどそれは興味深いな」


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