京都の実家に帰るのは七カ月ぶりとなる。
こちらも粉雪が舞い、寒さは今年一番だと、行き交う地元の者たちが話していた。
タクシーを降りて門を開けると、千雪はようやく家に帰ってきたという実感がわいた。
家の管理をお願いしている家政婦の倉永さんから、正月帰るのなら掃除をしておくと十二月に入ってから連絡があり、頼んでおいたので、家の掃除から庭の手入れまできっちりしてくれてあった。
「ちっさいうちやけど、これから家中掃除とか考えられへんから、ほんまありがたいわ」
ピアノの調律も立ち会ってくれたらしい。
「そういえば、京助も京都におったことがあるんやったな」
「一年足らずだがな」
京助は既に勝手知ったるでブレーカーを上げ、エアコンや灯りをつけて回り、コートを脱いで年季の入った木製のハンガーに引っかける。
「どの辺りにいたん?」
「知恩寺ってあるだろ、その近くだ。あの頃はよかったぞ、静かで。俺も真面目な学生だった」
千雪が脱いだコートを取り上げてハンガーにかけている京助に千雪は笑う。
「静か? 京助が?」
「てめ、何を笑いやがる」
当時のことをたまに思い出すことはあるが、それは京助にとって胸に重いことも同時に蘇る。
母の死、当時つき合っていた美沙との別れ、ずっとそれらを事実として受け止めることができないでいた。
だが千雪との出会いによって救われたというのは、あながち大げさなことでもない。
外見にとらわれていると見損なうかもしれないが、初対面から千雪は面白い存在だった。
視点が違うというかずれているというか、まあ、クリエイターという種族は多かれ少なかれそんなものなのだろうが。
京助は物事を分析はするが何かを作る人間ではないから、美沙の時もそういう面に惹かれたのだ。
京都に住んでいたのは半年ばかりだが、思い起こせばあらゆる面から様々な知識や造詣を深めることができた時間だったのだ。
こうしてまた亡き恩師の家に足を踏み入れることがあろうとは思わなかったが、お蔭で当時のことをわだかまりなく口にすることができた。
back next top Novels