頭の中のもやもやが嫌で、残っていたグラスの酒を飲み干すと、千雪は工藤の手元を見て、「それって美味いん?」と工藤に聞いた。
「お前にラム酒の味がわかるのか?」
「工藤さんこそ、ヘミングウェイを気取りたいだけやないんですか?」
「フン、カクテルかなんかにしてもらえ」
工藤はせせら笑い、スタッフを呼んだ。
「同じやつ、とこっちにモヒート。万里子は?」
「じゃ、ダイキリ!」
「今度は強くないカクテルお願いします」
檜山が言うと、工藤はモスコミュールを頼んだ。
「映画の第三弾ってオーディションやるんですって?」
万里子が思い出したように工藤に尋ねた。
「ああ、スポンサーとタイアップで準ヒロイン役のな」
「ヒロインはどなた?」
「加藤あずさ。オフレコだ」
女優の名前など聞いてもさっぱりな千雪は眉を顰める。
「いったいどれをやるんかも聞いてへんし」
工藤がフンと笑う。
「『かぜをいたみ』。美人なヒロインはどうせモデルは小夜子さんあたりだろう」
それを聞くと、千雪はムッとする。
ビンゴ、などと言いたくもない。
「じゃあ、準ヒロインて、その娘の役ですか」
千雪は上目遣いに工藤を見やる。
「ああ。下手でも高校生らしけりゃいい」
「『かぜをいたみ』、あたし好き! 娘を守るために財産目当てで自分と結婚した夫を殺す美人妻の話!」
万里子が簡潔に内容を説明した。
「一言で説明されると、なんやあほらしなるなあ」
千雪はソファに凭れかかる。
「あら、ヒロインすごく素敵じゃない? 加藤さんぴったりよね。品よくて知的で、表情を変えずに夫をナイフで刺すとか」
「ああ、それ、口に出して言わんといて」
「やだ、千雪さん、自分が書いたのに」
「あんまり書きとおないんや、血みどろな殺人現場とか」
千雪は首を横に振った。
「ああ、あれでしょう? 女性が刺したと思った相手はまだ生きていて、女性のために罪を犯した本当の犯人が最後に源重之の歌を口にするっていう」
檜山が言った。
「まさか、匠、読んだんか? あんなもん」
驚いて千雪は檜山を振り返る。
「あんなもんを映画にするんだ。せいぜい人前じゃ、好きな作品ですくらい言っておけよな」
工藤が千雪を窘めるように言う。
そこへスタッフに案内されて研二がやってきた。
「こんばんは、お邪魔します」
「すぐわかった?」
檜山は研二を見ると微笑んだ。
「ああ」
研二は千雪を見ると「おう」と声をかけた。
「撮影やったって?」
「このプロデューサーに無理やりやらされたんや」
千雪はまず文句を口にした。
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