かぜをいたみ12

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「工藤だ。顔は合わせてるが」
「はい、存じ上げております。黒岩です」
 研二は静かな低い声で言った。
「菓子職人というより武道家の風情だが」
 大柄で存在感のある、どちらかというと強面な研二を工藤は見定めるように言った。
「ずっと柔道やってましたよって」
「なるほど」
「あ、小野です。はじめまして」
 万里子は研二ににっこりと笑いかけた。
「カッコいい方ね。千雪さんの同級生? 三田村くんとかと一緒?」
「はい。千雪の映画に出てはった方ですか?」
 研二はそれでもまだ研二にしては柔らかい表情をしている。
「あ、そうです。わあ、まともに言われると何か恥ずかしい」
 万里子はちょっと頬を赤らめる。
「研二、車で来たんやろ?」
 千雪は檜山越しに聞いた。
「ああ」
「車は駐車場に置いとけ。タクシーで帰ればいい。飲めるんだろ?」
 工藤は今度は研二に興味を持ったらしいと千雪は察した。
「パワハラですやろ。押し付けは」
 千雪はちょっと工藤を睨む。
「強要はしてないだろうが」
 フンと工藤は千雪を見た。
「どうせ工藤さん持ちやしな。俺、さっきのもう一杯もらお」
 千雪はそう言うとトイレに行こうと立ち上がった。
 隣の檜山と研二の前を通ってソファセットを出る時、ちょっとバランスを崩してふらついたところを、研二がサッと千雪の腕を掴んだ。
「大丈夫か?」
「ちょっとけっつまづいただけや」
 レストルームとアルファベットで書かれた方へ歩きながら、千雪はふう、と息を吐く。
 洗面台の前で千雪は無意識にさっき研二が掴んだ腕に指を触れた。
 鏡を覗き込むと自分の顔が映り、何やら不安げな色の目がこちらを見ている。
 ほんまにしょうもないやっちゃ、俺は!
 檜山の研二に対する思いに、ただの友人以上の何かを感じていた。
 例え友人であっても、モヤモヤしたものが消えてくれない。
 独占欲でしかないとはわかっていても、胸の奥底で余焔のような感情が消えてくれない。
 研二の優しさは今も昔も変わらない。
 だから余計にモヤモヤしてしまう。
「おい、京助が迎えにくるっていってたぞ」
 千雪が戻ると、工藤が言った。
「はあ? 何で工藤さんに」
 思わず工藤を睨んでしまった。
 携帯をジャケットのポケットに入れているので、そっちにも連絡が入ったのだろう。
「あいつ、モルグでご遺体と格闘しとんやないのんか」
 撮影があるとは一応京助にも言っておいた。
 東京に戻ってからも千雪の予定を逐一聞いて来るので、聞かれる前に話したのだ。
 アパートが空き巣にやられたのを知ってから、また京助の千雪に対する行動がストーカー染みてきた。
 どのみち、携帯のGPSでここの位置も把握しているんだろう。

 


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