今更だから何も言わないが、疲れているだろうに、迎えに来るとか、ニューヨークじゃあるまいし、そこまで世話を焼かなくても、俺だっていい大人なんだし、とは思うのだが。
「そういや、空き巣に入られて何か取られたのか?」
工藤が思い出したくもない話題を持ち出した。
「いや、何がなんだか、部屋がしっちゃかめっちゃかになっとって、俺もそう把握もしとらんかったし、第一金目のものなんかあれへんのに」
そうだ、金目のものといえば、京助が置いていたブランド物の衣類なんかが盗まれたかも知れなかった。
「本くらいしかないような部屋やったし、ほんでも俺にとっては初版の古い本とか大事に思うとっても、空き巣には何の価値もなかったらしうて、盗みもせえへんかったみたいや」
千雪は苦笑いした。
「引っ越して正解や思うで?」
ボソリと研二が言った。
「コンシェルジュ付きのセキュリティがっちりのマンションだからな」
訳知り顔で工藤が同調する。
「俺には上京した時から住んどったあのアパートが居心地よかってんけどなあ」
「ファンとかも怖いことあるわよ? アパートとか絶対ダメよ」
万里子も心配そうに断言する。
「そら、知られたら万里子さんとかならファンも押し掛けるか知れんけど、俺なんかなあ」
「ダメダメ! ストーカーとか怖いわよ」
以前、ストーカーに悩まされたことのある万里子は本当に怖そうに首を横に振る。
いや、ストーカーって、京助に勝てるヤツおれへんよなあ、と千雪は心の中で呟いた。
「それで、その空き巣、捕まったのか?」
檜山が聞いた。
「指紋は残さへんかったんやけど、手口やなんかから、警察が常習の空き巣に辿り着いて、そいつがゲロしよったらしいわ。ほんまにものずきなやっちゃ」
「よかったじゃない、捕まって」
「まあ、日本の警察は優秀やからな」
今迄の経緯を思い出しつつ幾分皮肉を込めて千雪は言った。
「日本は住みやすいよ。東京ですら」
しみじみと檜山が口にする。
「檜山さん、ずっとニューヨークに?」
「高校の時に祖父の養子になった頃は、実家が何だかだうるさく言ってくるし、知り合いが向こうにいたんでちょくちょく行ってたんだけど、大学からはずっと向こう」
万里子の問いに、檜山はサラリと答える。
その時、京助がやってきた。
「千雪、帰るぞ」
来る早々、京助は言った。
「全くお前はせっかちなやつだな。仕事終わったんだろ? まあ、座ってお前も飲め」
工藤をジロリと睨んだ京助は、「車だ」と言う。
「駐車場に置いといてタクシーで帰ればいいだろうが」
仏頂面のまま京助は空いていた万里子の隣に座った。
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