かぜをいたみ14

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「京助、何か顔が怖いよ」
 檜山はフフッと笑って京助を見た。
 檜山を挟んで研二が右に、千雪が左に座っている。
「遺体と日がな一日格闘してみろ。顔も怖くもなろうさ」
 京助はジャックダニエルのロックを口に持って行く。
「特に今日のは他殺体で、ナイフの……」
「やめてんか」
 他殺体の説明なんかを始めた京助をすかさず千雪が止めた。
「何だよ、小説のネタになるんじゃねえのか?」
「うっさいわ」
 千雪はグラスに残っていた酒を飲み干した。
「血なまぐさい話なんか聞きとうもない」
「よくそれで推理作家なんかやってるな」
 工藤が茶化す。
「俺のは推理小説やのうて、探偵小説や言うたやないですか」
 千雪は開き直る。
 最初に探偵小説だ何だと言い出したのは、京助の悪友速水だ。
 今T大で犯罪心理学の助教だ。
 近々准教授になるという話もあるが、出会いからして速水と千雪は最悪だった。
 思い出しても腹が立つ千雪は、未だに速水と顔を合わせればああいえばこういうの応酬だ。
「あたしは血みどろの描写なんかはいらないし、千雪さんの小説は背景描写が素敵だと思うの」
 万里子が千雪の肩を持つ。
 確かに、と工藤が心の中で呟いた。
 最初に映画化した原作「花のふる日は」のどこに工藤を引き込むものがあったのか。
 やはり古い桜の木の根元に花びらの中に埋まるように横たわる女の情景だ。
 たった数行のそれが、工藤の頭から離れず、尚且つちゆきと同じ音を発するその名前に、足を止めずにいられなかったのだ。
 あれほど桜を忌み嫌うようにして避けて来たにも拘わらずだ。
「桜の花びらが敷き詰められたあのシーン、演じているはずなのに、何だか段々本当にあの人になっていくのよ」
 万里子の言葉は説得力があった。
「あのシーンは思わず引き込まれました」
 研二が万里子を見て言った。
 そんな時、思いがけない飛び込みがあった。
「あれー、工藤さんじゃん」
 若手俳優の有望格と評判の、大澤流だ。
 映画監督と有名女優の間に生れた二世俳優で二十六才になる。
 我侭でちょっとくせがあるが、親譲りの端正な顔と演技の巧さで数年前から注目を浴びていた。
 大学までアメリカで過ごし、卒業と同時に帰国したが、その生意気な態度だけはすっかり有名になってしまっている。
「あれ、そっちは確か能の先生だよな、どーも」
 檜山が「どうも」と愛想よく返すと、流は今度は千雪に目を止める。
「こっち新人? へえ、えっらく、超美人じゃねえか。男? こいつ? 近頃は女みてーな男多いからな、ナヨッとした。今ってそっちの方が売れるみてーだけど」
 初対面というのに、いい加減千雪の一番嫌いな言葉を並べ立ててくれる。
「女みたいで悪かったやんか。そっちこそヘラヘラうるさいガキやな」
 一瞬場が静まり返る。

 


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