「だって、京助さんって、何も隠そうとか思ってない人でしょ? 大学じゃなくても、アパートの前で京助さん、平気で先生にキスするし」
思い切りはっきり言われて、千雪は頭を掻きむしった。
確かに誰に見られてもおかしくない。
「ったく、あんの、ドアホが!」
「周りの方はみんなご存じなんですね? 病院で、先生が帰っちゃったことを聞いて、紫紀さんとか小夜子さんも冗談だろってイラついてて、三田村さんって人が余計なことをって怒ってたし」
「ああ、あの頃はいろいろあったよって、木村さんが気にするようなことはないから」
「でも、ほんとにすみませんでした。涼香ちゃんにはそれとなく、京助さんには付き合っている人がいるって言いました。そしたら涼香ちゃん、絶対アナウンサーになるって頑張ったんですよ」
「そら、よかったやん。今度は木村さんが自分のこと何とかせえへんとな」
人には言えるんだよな、と千雪は心の中で付け加える。
留学している間に、いろいろな新しいことを吸収できたかも知れないが、とりあえず文章は書けるようになったものの、研二や京助やそれこそ涼香のように明確な目的があるとは思えない自分がもどかしい。
「そうですね、とりあえず模索中ですけど」
木村は大きく頷いた。
「自分のこと俺に知らせたかったんやね? 携帯わざと見せて」
千雪の言葉に木村はちょっとはにかんだ。
「在学中に原稿見ていただいたお礼とご挨拶したかったんですけど、二年前、いきなり留学されたので、なかなかその機会がなくて」
「そうなん? おおきに」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
木村はしっかり頭を下げた。
「ほな、そろそろ俺行かんと」
「じゃ、私も」
千雪はレシートを掴んで立ち上がった。
「コーヒーぐらい、奢らせて」
「あ、ありがとうございます」
木村は慌ててまた礼を言った。
レジで会計を済ませて店を出ると、木村が待っていた。
「かえってごちそうになってしまって」
「いや、ああ、けど、木村さんはもうええン違う?」
「え、何がですか?」
「もう、眼鏡とかせんでも、木村さんのままでも」
すると木村はにっこり笑い、「はい、でも、まあ、臨機応変に」と言う。
「あそ」
木村とは店の前で別れたものの、青山プロダクションに寄っている時間もなさそうなので、千雪は地下鉄の入り口を探して階段を降りた。
日本橋の店に顔を出すと、ちょうど小夜子が奥から出てきたところで、そのまま食事へと誘われた。
「お鮨でいいわよね?」
「うん」
原一家のいきつけの店で、二人は奥の座敷に案内された。
刺身や焼物、椀ものが並んだ鮨懐石を堪能したあと、デザートにアイスクリームが出たところで、「それで? 何か話、あるんやろ?」と千雪は切り出した。
「うん。あのね、赤ちゃん、五カ月なの」
アイスクリームをきれいに食べた小夜子がサラリと言った。
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