かぜをいたみ40

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「お、めでとう、ってか、もう五か月?」
 小夜子は確かにゆったりしたAラインのワンピースを着ているが、お腹が特に目立っているとは思えない。
「先月、紫紀さんの仕事の都合もあって、一緒に日本に戻ってきたんだけど、ちょっと風邪気味かなと思って、病院行ったら妊娠してるってわかって、びっくり。忙しくて全然気づかなかったの」
 フフフと小夜子は屈託なく笑う。
「だから紫紀さんだけ来週パリに戻って、私はこっちで出産することにしたの。予定日は十二月の半ばみたい」
「つわりとか、平気なん?」
「それがね、ちょっと気分悪いかなみたいなことはあったけど、全然軽かったのね。もう、お父さんやお母さんの方がおろおろしちゃって」
「そらそやろ。ほんまに気ぃ付けんと、心配や」
 おめでたというとどうしても江美子のことを考えずにはいられず、千雪は知らず険しい表情になった。
 そんな千雪の心の中を見越したのだろう、小夜子は「大丈夫よ」とほほ笑んだ。
「とにかくそういうことだから、年内はこっちにいるわ」
「そやな。その方が、おじさんおばさんも安心やろ」
 パリなんかでなんぞあったら、いや何もない思うけど、とにかく近くにいていつでも様子がわかるのが千雪にとっても有難い。
「それでね、千雪ちゃんたちも戻ってきたことだし、私の懐妊祝いってのも変だけど、週末、また綾小路でお食事会をすることになったの。ボストンのマギー叔母様もいらしてるのよ。だから千雪ちゃんも………」
「悪いけど俺はパス」
 小夜子が言い終わらないうちに千雪はきっぱりと言った。
「俺は小夜ねえの従弟ってだけで、綾小路とは何の関係もあれへんし。留学中マギーには世話になったけど、それはそれや」
 何となく居心地が悪かった二年前の食事会のことも千雪の記憶にはまだあった。
 しかもそのあと、京助が両親に千雪とのことをぶちまけたという。
 一層居心地が悪くなったような食事会になど金輪際行きたくもない。
 するとしばらく小夜子も口を噤んでいたが、少し言いにくそうに切り出した。
「あのね、実はお義父さまからも、千雪ちゃんに来てもらいたいって言われてるのよ」
 それを聞くと千雪はイラつきを隠せなかった。
「何で? 京助がぶちまけたことで俺にまでとばっちりはごめんやで」
 本当に冗談じゃない。
 また何か文句なり言われたりした日には、ただでさえ作り笑いなど嫌いな千雪としては切り口上で理詰めで返しそうだ。
「小夜ねえの結婚した紫紀さんの父親やし、俺としては波風立てんようにしよ思うとったんや。前回の食事会の時も、あんまり俺には好意的やないようやったしな。それが京助のアホがわざわざ波風立てよって。せえけど俺も京助も俺らは俺らやいうスタンスだけは同じなんや。世間やら親兄弟が何を言ってこようと雑音でしかないし、文句を言われる筋合いもない。もし何ぞ言われた日には、俺なんか短気やから下手すると十倍返しでやり込めるかも知れんで? できればそれは避けたいわ、俺としても」
 千雪は一気に言い切った。


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