聞きたくないながら聞いた千雪に、小夜子が言った。
「やっと事実を理解したら、京助さんが誑かしたに違いないとかってお父さんが怒り出すから、綾小路では二人のことをちゃんと認めてるって言ったのよ」
「ってか、余計そんな状況でやる食事会に顔出すやなんて冗談やないわ」
ムスッとした顔で千雪はふうっと息を吐く。
「本当の自分を隠したいほど否な目にあってきたから、周りの人のことを信用できないのよね? その上、江美子さんが亡くなったことでどれだけショックだったか、私にはわかる気がする。生涯この人ならって思ってた人がいきなりいなくなった時、もうそれからの時間って、私にとっては余生のような気がしたもの」
千雪は顔を上げた。
「猛さんと結婚するって言った時、お父さんもお母さんも大反対したし、それこそもう駆け落ちでもしようかって思ってたくらい」
「え、そうなん?」
最初反対されたけどくらいしか聞いていなかった千雪は意外な話に少し驚いた。
「さすがに叔母様の例があるから、親も少しは大人しくなったけど、ほら、危険な地域に行くような報道記者だったし、猛さん長男だったから、やっぱり反対されたのよ。でも、猛さんが原の家に入るって言ってくれて、猛さんのご家族も皆さんいい方で、穏やかにうちの親を説得してくれたのは猛さんだったわ」
いい人だったことは千雪も知っている。
千雪のことを小夜子の弟のように可愛がってもくれた。
「幸せってほんとにひとときのことなんだと思ったわ」
しみじみと口にする小夜子の言葉は千雪の心にも刺さった。
千雪にとっても両親がいて、研二や江美子がいたあの頃こそが幸せな時だったのだと思うからだ。
誰もが去って、千雪一人が残されて、それこそ小夜子の言うように余生のような気がして、誰もを寄せ付けなくなった。
「京助さんもね、いろいろな葛藤を抱えてたのね。高校時代、付き合ってた方のことで勝手なことをした親戚の方を殴って以来、周り中敵扱いしてたって、紫紀さんが言ってたわ。それに京助さんは言い訳もしないから、よく誤解されるって」
「そういう理不尽なことに対する京助の怒りは、ようわかる」
すると小夜子は、そうなのね、と頷いた。
「でも敵ばかりじゃないでしょ? マギー叔母様は京助さんにも千雪ちゃんにもよくしてくださったんでしょ?」
確かに、留学していた時、よく家に呼んでくれたし、一家で二人の話を聞き、理解してくれた。
それはよくわかっている。
「うちの親は千雪ちゃんのことを大切に思ってるのは確かよ。それだけはわかってあげて?」
「やから、俺かて、世話になっとるし、心配かけとうないて思うとるわ」
「いいのよ、勝手に心配させておけば」
小夜子は軽い調子で言った。
「だから、できれば食事会のこと、もう少し考えてみて」
そう、小夜子に言い含められた千雪だが、部屋に戻ってもそう簡単にはいそうですかという結論になるはずもなかった。
「小夜子、どうだった?」
千雪のお株をとるように上下ジャージでパソコンのキーボードを叩いていた無精髭の京助が聞いた。
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