「もう、五カ月やて。気づかんかったて言うてた。目立つ程のお腹でもなかったし」
「てことは、十二月くらいか? 予定日は」
京助が聞いた。
「うん、こっちに残って出産に備えるらしい」
「原さんとこは大喜びだろう。初孫だし」
「うん、まあ、そやろけど」
千雪はTシャツとパンツ一枚になってバスルームへと向かう。
「何だよ、煮え切らねえ返事だな」
「うん。シャワー浴びてから」
そう言うと、千雪はバスルームのドアを閉めた。
京助はチラリと千雪を見たが、あと少しで終わる論文に集中した。
千雪がシャワーを浴びて出てくると、京助はプリントアウトにかかっていた。
冷蔵庫から缶ビールを取り出して、千雪はプルトップを開けた。
「おい、頭、拭け。夏だからって生乾きだと風邪引き込むだけだろう」
バスローブは着ているが、髪は濡れたままの千雪に京助は文句を言った。
「ああ、うん」
缶ビール片手にソファに腰を降ろした千雪は、適当な返事をする。
そういう千雪を放っておけないお母さん気質の京助は、バスルームの棚からタオルを取って来て千雪の頭に被せた。
「小夜子は身体もしっかりしているし、安産タイプだから、心配しなくてもいいぞ」
京助にうだうだと心配していたことを当てられて、千雪は眉を顰める。
確かに江美子は華奢で菊子と一緒にビデオ通話してきた時も、声は元気だったがお腹が重そうで千雪は画面のこっち側で見ていてもはらはらした。
江美子と比べれば、小夜子は背も高く、太っているわけではないが、どちらかと言うと豊満型といえるだろう。
だが、だからといって産まれるまでは全く危険がないとは言えない。
「第一お前が気をもんだところでどうしようもない」
「まあ、そらそやけど」
京助に断言されて、ムッとした千雪はタオルで髪をごしごし擦る。
「京助、食事会行くんか?」
「仕方ないだろう、小夜子さんのご懐妊祝いってことなら」
「何かプレゼント、用意せなんな」
「お前はどうする?」
聞かれて千雪は言葉に詰まる。
「俺は……行きとうない」
小夜子には嘆願されたが。
「お前は弟やから仕方なくも当然やろ。けど俺は、原の人間やないし、めでたいことや思うけど、小夜ねえには俺は俺で祝いをすればええんや」
すると京助は「何も気が進まないところへ無理に行くことはないさ、お前は」と言った。
「マギーにはよろしゅう言うとって」
「ああ。さてやっと終わった。やっとシャワー浴びれる」
京助が立ち上がってバスルームに向おうとした時、携帯が鳴った。
「今夜モルグに下る気はさらさらないぞ」
法医学教室からの呼び出しかと訝しんだ京助だが、画面に浮かんでいる名前を見ると、また眉間に皴を増やした。
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