かぜをいたみ60

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 さらに海外からの電話も入った。
 一応、二年の留学生活で、ごく普通に会話ができるようにはなったものの、英語圏のみならずフランス語が聞こえてきた時は、あちこち飛び回っている工藤がかなり語学が堪能らしいと少しばかり見直した。
 フランス語は小夜子が得意なので、千雪も発音など少し教わったのが今回役にたった。
「パリのコレクションにアスカさんが出るんや」
 そんな内容だった。
 二年の間にアスカさんもキャリアアップしたんやなあ、などと思いつつ、千雪はここに来た当初の目的であるビデオのチェックを始めた。
 やがて鈴木さんたちが戻ってきたらしいことは、猫の鳴き声が聞こえてきたのでわかった。
「お帰りなさい。お、かわええな」
 鈴木さんが大テーブルに置いたキャリングケースには大きな目をくりくりさせた三毛猫がいた。
「いきなりこないなとこ連れてこられて、怖いよな」
「そうねえ。上が片付いたら連れて行きますわ。良太ちゃんの家財道具は引っ越し業者さんが今運んでくださってるし、アパートの掃除やなんかは、さっきの清掃業者さんにお願いしたので、あとは運び入れた荷物の片付けだけなんですけど」
「ほな、俺、てったいますわ。」
「あら、千雪さんにそこまでやっていただくわけには」
 さすがに鈴木さんも恐縮した。
「ちょうどビデオチェック終わったとこやし。良太ちゃんの部屋て、上?」
「七階です。じゃあ、お願いして、私はここで仕事やらせていただきますわね」
「どうぞどうぞ」
 千雪は嬉々としてオフィスを出て、エレベーターに乗る。
 どんな部屋なのか、興味がわいたのだ。
 千雪も、帰国したらアパートに空き巣が入ってしっちゃかめっちゃかで、急遽引っ越しを余儀なくされたのだ。
 しかも本来なら自分で部屋を探したかったところを、ちょうど京助の部屋の下の階が空いているからと、京助のみならず小夜子や紫紀に、セキュリティが万全だからと押し切られてしまった。
 今の部屋は前のアパートと比べたら雲泥の差で、数倍広く、一部屋を書庫にできたことはまあ、有難いとは思っているし、居心地も悪くはない。
 広瀬、もとい、鈴木さん曰く、良太ちゃん、もまた自分の意とは関係ないところで引っ越しさせられたわけで、千雪には何やら同情しないではいられない同志的な気持ちもないではなかった。
「へえ、割と広いんやな」
 がらんとした部屋は天井も高く、床には涼し気な絨毯が敷いてあり、そこに広瀬の家財道具一式が運び込まれていた。
「荷物これだけですか?」
 カーテンをかけている平造に、千雪は声をかけた。

 


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