かぜをいたみ62

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「これで少しは良太ちゃんも快適に過ごせるようになるとええけどな」
 同情したというよりは、鈴木さんの話に聞く、とても家族思いで頑張り屋な良太ちゃんがあんな目に合うのは理不尽だという、むしろ怒りに近いものが千雪の中にあった。
 しかも闇金の餌食にまでなっていたことも腹立たしく、自分の家具をリサイクル業者に売ってしまったことすら悔しかった。
 だからこの程度のことは当然だ、というような感覚で千雪は部屋を後にした。
「鈴木さん、部屋の片づけ、終わりました」
 千雪がオフィスを覗くと、「あら、ありがとうございます。お客様にお手伝いをさせてしまって」と言いながら鈴木さんは立ち上がった。
「も、全然、少しでもお役に立ててよかったですわ」
「じゃあ、この子、お部屋に連れて行かないと、知らない場所で怖い思いをしてるわ」
「じゃあ、俺、鈴木さん戻ってくるまで待ってます」
「ごめんなさいね、すぐ戻るわ」
 鈴木さんが猫の入ったキャリーケースを持って出て行ってすぐ、オフィスのドアが開いた。
「おっとおお」
 千雪を見るとニヤッと笑って入ってきた男は、この青山プロダクションの嘱託カメラマンで井上俊一という。
 映画のプロモーションや先日は小野万里子と一緒に原夏緒の番組に千雪が出演した際、撮影にやって来たのが井上だった。
 しかもその際、万里子がちょっといたずら心を起こし、千雪のメガネを取り上げたことで、井上も、その素顔にメチャクチャ驚いてくれたのだ。
「どうも、小林センセ」
「ああ、あんたか」
 千雪は思い切り不愛想な顔を向けた。
「あれ、社長や鈴木さん、良太ちゃんは?」
「鈴木さんは上、あとは出払ってる。俺は留守番」
「留守番??」
 井上は胡乱気な表情で首を傾げつつ、肩から掛けていたバッグから、封筒を取り出すと工藤のデスクに置いた。
「あ、そうそう、万里子に頼まれて焼いてきたんだ。先生にもやるよ」
 再びバッグから取り出したこちらは薄い封筒を開けて、井上が中から取り出した写真を見た千雪は、眉を顰めた。
 既に石塚教授は帰った後だったが、万里子と素顔の千雪がバッチリ写っていた。
「あ、心配すんなよな。工藤にも社外秘だっつって念を押されたし、全然誰にもしゃべってないから」
 万里子は千雪との一緒の写真を喜んでいたから、まあ、いいか、と千雪は思う。
「下に、軽トラあったけど、ひょっとして平さん来てんの?」
「今、ちょっと所用で出かけてる」
 千雪はパソコンをしまいながら言った。
「ふーん。何かあった? 平さん来たり」
 訝しむ井上に、千雪は話していいものか迷う。
 ちょうどそこへ鈴木さんが戻ってきた。
「猫ちゃん、カリカリ上げたら一生懸命食べてたわ。よかった」
 そう言ってから井上に気づいて、「あら、井上さん、いらっしゃい」と声をかけた。
「猫いるん? 上に?」
「ああ、そうなの」
 問われて鈴木さんも逡巡したようだが、「どのみちわかることだから、あのね、実は……」と良太が入院していることをかいつまんで話した。
「え、何、それって社長の関係じゃねえの?」
 どうしてもそれは誰もが考えてしまうらしく、井上も問い返した。

 


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