かぜをいたみ64

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    ACT 5
  

 広瀬良太にはすぐにまた会えるだろうなどと考えていたが、多部から書き下ろしの進行が遅いと催促が来て、千雪は仕方なくしばらく部屋に籠っていたため、八月に入ってもなかなかその機会は訪れなかった。
 籠っていたといっても、煮詰まるとバイクであちこち走ってみたりしていたのだが、その間に、『ルーファス』にも訪れていた。
 老人にまで変装していたという木村の向こうを張るわけではないが、一時的に明るいカラーにした伸び過ぎた髪を後ろで結わえ、カラーコンタクトを入れ、白のカットソーに黒のボトムスにスニーカー、バックパックを肩に引っ掛けて夜の九時頃、フラッと店に入っていった。
 髪の色と瞳の色で、印象は随分変わる。
「ここでバイト紹介してくれるって、ダチに聞いてんけど」
 千雪の前にウォッカソーダを置いたバーテンダーは眉を顰めてジロジロと千雪を見た。
「ダチって誰だ?」
「広瀬いうやつ、知ったはる?」
 途端、バーテンダーの目に緊張が走った。 
「それが、急に連絡取れへんよになってもて、しゃあないから来てみたんやけど」
「そいつとどういう関係だ?」
 おそらく乗り込んだ工藤にかなりビビったのだろう。
「いや、なんか居酒屋で会うて意気投合したんや。最近あいつラインも既読になれへんねん」
 すると胡散臭げな顔でやはりジロジロ見ながら、「お前、日本人?」と聞いてきた。
「や、ハーフやねん」
 昔からよくそう聞かれたので、千雪は言ってみた。
「フーン、お前、学生?」
「せやねんけど、バイト先首になってもうて、親なんか金出しよらんし、このままやと部屋おんだされるねん、はよ、バイト決めんとあかんねや」
 バーテンダーは「ちょっと待ってろ」と言うと奥に引っ込んだ。
 ややあって現れたバーテンダーは、「一緒に来い」と千雪に行った。
 男が千雪を連れて行ったのは、先日工藤が案内された古いビルの二階で『山本企画』とドアに書かれている。
「山本さん、連れてきました」
 縦縞のスーツを着たちょび髭の男は、立ち上がって千雪の前までやってきた。
「ほう? 君、名前は?」
「木村やけど」
 千雪は咄嗟に浮かんだ名前を言う。
「木村くんか。いいね、ただし、金にはなるが、何でもやるくらいの気力じゃないと」
 千雪より十センチは低いだろう山本は見上げて千雪の頬を手でピタピタと触った。
「体力には自信があるんで」
「いいだろう、座って待っていなさい」
 チョビ髭はにやりと笑って、デスクに戻っていく。
「じゃ、俺はこれで」
 バーテンダーが出て行くと、チョビ髭は携帯で誰かを呼び出した。
「お世話になっております。ちょうど、いい子が入ったんですが……、あ、わかりました。じゃ、さっそく」
 チョビ髭は千雪を伴って部屋を出ると、ドアに施錠した。
「それじゃ、行こうか」

 


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