かぜをいたみ65

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 千雪は札入れをパンツの後ろポケットに入れ、携帯をストラップで斜め掛けにした。
 ポケットから取り出した鍵をチャラチャラ弄びながら、チョビ髭はスチールの階段を下りていく。
 千雪がチョビ髭についていくと、近くのコインパーキングまでやって来て、コンパクトカーのロックを外した。
「さ、乗って乗って」
 車はパーキングを出ると、五分も走ったか、これもまた古いビルの前で止まった。
 走っているうちに、千雪はラインでメッセージを送っていた。
 チョビ髭は山本。これはやっぱ、プランBやで。イッツショータイム!
 携帯を覗く千雪をちらりと見たが、チョビ髭はたいして気にもしていないようだ。
 車を降りて見上げると、ホテル新宿3、と看板があった。
 亀裂が入った五階建ての古ぼけたホテルとは名ばかりのこのビルは、とても泊まりたいと思えるようなシロモノではなかった。
 これやったら浮浪者の段ボールベッドの方がよほど極楽やわ。
 千雪はまず心の中で毒づいた。
 その時、宅配ピザのバイクが走ってきて近くに止まった。
 チョビ髭は千雪を連れてドアを開けた。
 自動ドアでもないんかいな。
 チョビ髭は受付に座る男と一言二言言葉を交わすと、傍らのエレベーターのボタンを押した。
 乗り込んだエレベーターの中で、今にも壊れそうやんか、このエレベーター、と千雪は心の内で文句を並べ立てる。
 五階でエレベーターを降りると、チョビ髭は奥の部屋の前に立ち、ドアをノックした。
 すると中からドアが開かれた。
「どうぞ」
 背が高く髭をたくわえた中年の男は、二人を中へ促したが、チョビ髭の後ろにいた千雪を見ると、音が聞こえるほど息をのんだ。
「これは……また………」
 すると眼鏡の恰幅のいい男とスレンダーで髪をオールバックにした日焼けした男が後ろから現れて、「なんとまた」と喜びを露わにした。
 三人ともいいスーツを着て身なりはよく、富裕層に属する者のようにみえた。
「何? おっさんら」
 千雪は横柄な物言いで三人を見た。
「こんな、こんな、美しい子は初めて見た」
 フン、陳腐なセリフや。おっさんらに言われんでも、そんなん嫌ってほど言われとるわ。
 千雪は危うく口にしそうになって留めた。
「では、私はこれで」
 チョビ髭はそう言うと部屋を出て行った。
 

 


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