かぜをいたみ72

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「悪いけど、警察の捜査でやつらがあぶり出されたかどうかも怪しいし。俺らがやらんかったら、あのクソオヤジどもまだやりよったか知れん」
 辛辣な千雪の言い方に渋谷は言葉もなかった。
 被害者がまず名乗り出ていないのだ。
 事件にもなっていないものを警察は捜査することはない。
 とりあえず広瀬良太の動画はなかったので、それはそれでよかったのだが、三人の男たちや山本やらから、良太の名前が出ると、警察が聴取に向かうだろうことが、千雪は気がかりだった。
 被害にあったわけだから、良太が聴取されても仕方がないが、会社があの工藤の会社ということになると、それこそ古い話で容疑者にされそうになった千雪のアリバイを工藤が証明したあの時も、工藤は曽祖父母の養子でとっくに縁を切っているにもかかわらず広域暴力団中山組の組員であるかのような扱いを受けたわけだから、今回も痛くもない腹を工藤が探られることになるかも知れない。
「でもよかったわ、プランBで」
 千雪の言うのに、渋谷は怪訝な顔をした。
「せっかく渋谷さん、非番の時にお願いしたのに、プランCやと渋谷さんに登場してもらわなあかんかったし」
 それを聞くと、渋谷は苦笑した。
「いやもう、こうなったら何でもいいけどね」
 渋谷が警察に通報したプライベート携帯を千雪に返して、肩を落として帰っていくと、「通報しただけやのに、渋谷さんが一番疲れてはったなあ」などと、千雪は暢気そうに言った。
 事件は翌日マスコミ各社が大々的に報じて、三人の男や斡旋していた山本、それに加担したとして『ルーファス』のバーテンダーやオーナーも名前が報じられた。
 千雪が言ったように、不同意性交等罪、小児性加害、児童買春、児童ポルノ等の罪状と、それに準じた容疑で六人が逮捕され、被害者の捜査やどうやら会員と称して動画を観ていたユーザーにも捜査の手が及ぶことになったらしい。
 だが、渋谷を通して千雪が聞き出したところによると、良太の名前は『ルーファス』のオーナーもバーテンダーも、また山本も一切口にしなかったようだ。
「広瀬さんの名前がもし上がったら知らせるが」
 良太のプライバシーにも関わることだとは思ったが、千雪は他言無用とだとして、渋谷には工藤の会社の社員だと告げた。
「ああ、それで、名前を明かしてなかったのか。工藤さんに飛び火するのは困るしな」
 たまたま父親が警察官の時に、横浜の工藤家の近くの交番にいたことから、渋谷と工藤は顔見知りで、工藤が曽祖父母に大切に育てられたことを知っている渋谷は、工藤を他の警察官のような色眼鏡でみることはなかったのだが。
「事件のこと聞きました?」
 良太も当然ニュースで知っただろうから心配しているのではないかと、千雪は工藤に確認の電話を入れた。
「警察では良太ちゃんの名前は全く出てこなかったみたいやけど、工藤さん、店のオーナーとか、かなり脅したんやないですか?」

 


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