「よう」
気になって良太を見ていた千雪に、井上が声をかけてきた。
「明日、帰るんやて? 何時の便?」
「工藤と同じ」
井上はそう答えてから、にやにやと千雪に歩み寄る。
「なあ、お前もさ、期待だけさせて振りして、工藤の奴も可哀相じゃねーか?」
周りがフランス人だからか、井上は声を落とすこともせず言った。
途端、千雪は、「はあ?」と眉を顰める。
「勘違いさせてんのは工藤さんやで? 冗談やないわ、ほんま」
冷たい視線を井上に向けた千雪をアスカが呼んだ。
「どうする? これから街に繰り出す?」
「俺はパス。学会で精魂使い果たしてもたわ」
千雪は即座に拒否る。
「社長が先に帰っていいってさ。どっかで飲み直そうか」
隣ではぼんやり突っ立っている良太に秋山が誘っていた。
「いや、俺、もうこのへんで…。部屋帰って寝ます」
そうか、お疲れ、と良太の肩を叩き、秋山は井上と一緒に先にホテルを出て行った。
「じゃ、お疲れ様です」
良太は千雪らに声をかけ、何だか重い足を引き摺りながらタクシーに向かった。
「良太ちゃんもえろ、疲れてはるな」
「工藤さんがこき使うからよ。可哀そうに」
アスカが言った。
その時、タクシーに乗ろうとした良太に男が歩み寄るのが千雪の視界に入ってきた。
あれ、あいつ。
ジャック何たらいう確か俳優かなんかなんかやったな。
何気に千雪は二人を見ていたが、しばらく何やら話をしていたかと思うと、ジャックが良太を連れてまたホテルに戻ってくるのが見えた。
え?
と思う間にジャックは良太をエレベーターに連れて行き、乗り込んだ。
「ちょ、やばいんやない?」
千雪を振り返ったアスカが、「どうしたの?」と聞いた。
「あいつ、ジャック何たらってやつ? 今、良太を連れてエレベーターに乗り込んだで」
「何それ??? って、まさかやばいわよ、ジャックってゲイで可愛い男の子好きで有名だよ?」
「何やて?」
千雪はすぐにエレベーターまで駆け寄ったが、既にどの階で降りたかわからない。
「あ、秋山さん? 大変なの!」
アスカは携帯で秋山を呼び出しながらやってきた。
事情を話すと秋山たちはすぐに戻るという。
その間に、千雪やアスカがフロントでジャックの部屋を聞いても教えてくれようとしない。
「工藤さん、どこや?」
千雪は仕方なく工藤を呼び出した。
マルローとミーティングをしていた工藤は、良太がジャックに連れ去られたと聞くと、慌ててやってきた。
工藤のあとからマルローもやってきたことで、ようやくジャックの部屋を教えてもらい、工藤はエレベーターへと突進した。
千雪とアスカもあとに続いてエレベーターで上へと上がる。
三人はジャックの部屋のある階で降りると、ジャックの部屋へ走った。
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