千雪が良太を見つけてから結構もたついたので、二十分ほど経ったろうか。
工藤はドアをガンガンノックした。
その間に秋山と井上も駆け付けた。
「良太!!」
工藤が叫んだ。
「……工藤……さん!」
良太の声が中から聞こえ、やがてドアが開くなり、みんなが中へとなだれ込んだ。
「今度こんなマネをしたら訴えるぞ!」
凄みのある声でジャックに文句を言うと、肩を竦めてにやけるジャックを残し、工藤はみんなを引き連れて部屋を出た。
「何であんな男についていったんだ!」
エレベーターに乗り込むなり工藤は良太を怒鳴りつけた。
良太は脱げかけのシャツや、外れているベルトにようやく気付いたように直し、唇を噛む。
「あいつ、ゲイで有名だよな。まさか良太に目、つけるとはね」
ぼそっと井上が口にする。
「え…違う…俺…そんな」
良太は必至で言葉を絞り出す。
「とっととホテル帰って寝ろ」
エレベーターがロビーに着くと、工藤は良太に向って吐き出すように言い捨てる。
「工藤さん。そんな言い方ないやろ! 良太が可哀相やんか」
千雪は抗議したが、工藤はとりあおうとしない。
「良太、もう大丈夫だからね?」
アスカにしては最大限の労りの言葉だ。
「秋山、良太を連れていってくれ」
工藤は言い捨てるように言うと、打ち合わせの途中のマルローを待たせているラウンジへとたったか向かう。
「ほんとに、ほんとに、俺、そんなこと知らなかったんです、工藤さん!」
足早にその場を立ち去ろうとする工藤の背に良太は必至で呼びかけるたが、工藤は振り返ろうともしなかった。
「良太…大丈夫か?」
呆然と立ち竦む良太の顔を井上が心配そうに覗き込む。
「お前が奴に連れてかれるとこ見た時は焦ったぜ。フロントでもなかなか奴の部屋教えてくんねーしよ。工藤呼んできてマルローが口添えしてくれたんで何とかな」
「さあ、ホテルに戻ろう」
優しい声で秋山に肩を叩かれた途端、良太の目から涙が溢れ出した。
「ほな、俺、アスカさん送りますわ」
良太の涙にいたたまれず千雪は秋山に告げて、良太と秋山らを乗せた車の後からタクシーに乗り込んだ。
「良太、可哀そうに」
ぼそりとアスカが言った。
「あいつ、ジャック、今度会ったらただじゃ置かないから!」
いきりまくるアスカに、「文句は日本語で言ってくれ」と千雪は宥めるでもなく言った。
アスカや秋山、井上は知らないが、良太と工藤の間には複雑な思いもあっただろうと、千雪は察した。
あのクソジジイ三人組の餌食になりかけた良太が包帯を巻かれて痛々しく病室に横たわるようすが今も頭に浮かぶ。
「ジャックのやつもやつらと同類や! ほんま、ボコボコにしたっても気が済まん!」
千雪は日本語で喚いた。
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