壁にかかっているのは、悠がアイちゃんを描いた二十号だ。
「アイちゃんです。なかなか可愛く描けているでしょ?」
自慢げに藤堂が説明する。
「そうか、このコ、どこかで見たことがある思たら…」
「あ、コート、こちらにかけておきますね」
藤堂は小林からコートを受け取り、玄関横に備え付けられているクローゼットのドアを開ける。
「この絵、確かギャラリー銀河で個展やってた方の作品やないですか?」
ちょっと驚いたが、すぐ藤堂はにっこりした。
「ギャラリーいらしてくださったんですか? 実は私、あのギャラリーのプロデュースもやってるんですよ」
「え、そうなんですか? 従姉と観に行かせてもろたんです。あそこの社長さん、従姉の知り合いやったので、案内状もろたて。ほんで俺は良太に案内状もろてたから」
「おや、そうでしたか。まだ学生ですが、なかなか将来が愉しみなアーティストでしょう?」
「ええ、従姉も、なんか随分あの薔薇の絵が気に入って、つい先日、社長さんに譲ってもろた言うてました」
意外な展開に、藤堂は小林を見つめる。
「というと、もしや、従姉さんというのは、綾小路さん? てことは、日本橋の呉服問屋大和屋さんの?」
美保子から薔薇の絵を譲ったとは聞いていたが、その相手の名前までは注意していなかった。
「そうです。従姉が京助のお兄さんと結婚したので」
藤堂はようやく合点がいった。
それこそ、どこかで見たことがある美人だと、小林を見て思っていたのだが、彼の従姉だという綾小路小夜子、旧姓原小夜子は、大和屋の役員として実家を切り回す傍ら、日本有数のコングロマリット、東洋グループ次期総帥のファーストレディとして、その美貌と知性で、財界ではよく知られた人材だ。
「なるほどねー、財界の大物どうしのお付き合いってことか。美保子さんと、綾小路小夜子さん」
小林はちょっと首を傾げる。
「社長さんに大和屋をひいきにしてもろてるってだけやないですか? でも、絵は従姉が気に入って買うたんですけど」
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