「そう簡単にはいかないんだよ、五十嵐くん。うちでやりたいなら、写真でも何でも君の作品はこれだとわかるデータを用意して、社長のいる時にアポを取って出直すことだね」
誰が聞いてもまっとうな理屈である。
悠は拳を握りしめて唇を噛んだ。
「わかったよ! 持ってくりゃいいんだろ?」
踵を返して、悠はドアに向かう。
「ああ、五十嵐くん、アポイントは名刺に書いてある僕の携帯の方へね。それから」
振り返った悠に、藤堂は続けた。
「顔は洗ってきた方がいい」
悠はそれこそ顔を真っ赤にして藤堂を睨みつけた。
「………ごちそうさんでした!」
バッターン!!
思い切りよく閉められたドアがしなる。
「わー、スカッとしたー! さすが藤堂さん。もうあんなバッチィのきて、どうしようかと」
「身なりで判断しちゃいけないよ」
藤堂は息巻く啓子を柔らかくたしなめる。
「だってぇ、それだけじゃなくて横柄で、礼儀知らずで。今時の学生ってほんとバカなんだから。藤堂さんのことおっさんとか言うし」
おっさん……ね、三十の坂を越えればそう言われるのも致し方ないか。
「まあ、あれで結構いい作品を作るアーティストかもしれないじゃないか」
「そんなことあり得ませんね」
茶器を片付けながら啓子は冷たく言い切った。
それにしても妙な巡り合わせだ。
何となくだが、おそらくあの横柄なガテンボーイはおそらくまた現れるに違いない。
これはちょっと楽しみになってきたぞ、とつい先ほどまで抱えていた傷心も忘れて思わずにんまりとする藤堂だった。
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