「待て」
「洗ったよ」
「じゃなくて、唇、絵の具がついてる」
「ああ?」
ぺろりと舌を出して悠は無造作になめようとした。
「バカ、なめるな。毒物が入ってるんだぞ。ちょっと動くな」
藤堂はついている黄色い絵の具を拭おうと、悠の唇に手をのばした。
指が触れると、悠のからだがピクリと驚いた。
親指で絵の具を拭いながら、ぷっくりとした厚めの唇が妙に可愛い、などと意図せずして心が呟くのに思わずはっと我に帰る。
なんだそれは、やばくないか! 浩輔ちゃんの暗示にかかったみたいじゃないか。
「とれたぞ。食ってよし!」
やばい。
おいおい、やはりやばいぞ。
俺ともあろうものが、下手をすると悠の『先輩』の二の舞だ。
内心の動揺を抑えながら、藤堂もテーブルに着いた。
「この一連の絵のテーマは『海』かな?」
「浅いなぁ、その発想、高津並み。海は生き物の原点だろ? あんた、書いてたじゃん、俺の案内状に。『生きる』ってテーマ、あれ、結構ピンときたんだぜ、俺」
得意そうに悠は語る。
「なるほど……。でも、後ろの絵の二人、何で砂浜で寝てるんだ?」
「えー、だって死人だもん。じーちゃんとばーちゃん。生と死は表裏一体っていうじゃん」
何ら含みもなくさらりと悠は口にした。
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