「だってあのやろ、絵を見てやるとかって学生から金取ってんだぜ? 絵描くのに卒業証書なんかいるかって」
「わかった、わかった! そこまでの覚悟なら、俺としても応援しようじゃないか」
「え……ほんとか?」
一瞬、悠は逆にその瞳に戸惑いの色を浮かべる。
「といっても、ご飯とアトリエを提供するくらいしか今のところできないけどね」
「うん……ありがと」
急に心許なげに眼差しを伏せる悠を見て藤堂は、ひとりで気を張って生きてる、そう言った高津の言葉を思い出した。
「ガキの頃は藤沢に住んでたんだけど、母さん死んでから、鵠沼のじいちゃんばあちゃんの店の二階に転がり込んだから」
藤堂があけたワインをいつの間にか手酌で飲んでいた悠は、頬を真っ赤にして語った。
「あのあたりはいいね。八景島には行ったことがあるよ。ペンギンが可愛かったな」
「今度、案内してやろうか? 稲村ガ崎とか俺の庭だぜ、庭」
自慢げに悠は目を輝かせる。
やっぱり食事は誰かと一緒にするのがいい。
無邪気そうに笑う悠をあまり一人にしたくない、藤堂は漠然と考えるようになった。
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