「やだ、そっちはボランティアみたいなもんよ。義行の本業はアカウントエグゼクティブ。彼、もともと英報堂営業のトップだったの。達也と一緒に会社興したのよ」
そんなこと何も知らなかった。
藤堂だって教えてくれなかったし。
悠は頭を混乱させる。
「物が増えたわね。あたしがあげた冷蔵庫も使ってるんだ。あ、あたし、松井さやか。義行とは大学からのつき合いなのよ」
どうやら藤堂と親しいのだと言いたいらしい。
彼女、ではないようだが、藤堂のことを好きなのだろうか。
「そういえば、義行ってば、マミとかってモデルにはかなり入れ込んでいたけど、ふられちゃったみたいねぇ。長谷川美香とはうまく行ってるのかしら?」
彼女の言葉は悠の心をイチイチひっかいていく。
「そんなこと、俺は知らねぇよ!」
何だよ、マミって!
今まで考えてもみなかったが、確かに藤堂に恋人がいても不思議はない。
だが相手が女優とは思いもつかなかった。
「そ? ま、いいわ。じゃ、義行が帰ったら、また飲みに行こうって言っといて」
さやかは言うだけ言ってさっさと帰っていった。
いったい何をしにきたんだ? とは思うものの、悠の心の中にどんどん得体の知れない暗雲が広がっていく。
「何だよ、何で俺がおたおたするんだよ!」
英報堂。
名前ぐらい悠でも知っている。
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