サンタもたまには恋をする 49

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 一つだけ大学のアトリエに放ってあった描きかけの二〇号の前で、悠はリュックから取り出した絵の具を広げた。
 悦子の描いているバラのドライフラワーをジョークのつもりで描き始めたものだ。
 ふと、カンバスの上で筆が止まる。
 初めて藤堂に出会った時のことを改めて思い出す。
 奇妙な偶然。
 もし、あの時出会わなければ……
 顔を上げて、アトリエを見回すと、みんな一心不乱に作品に取り組んでいる。
 自分だけ筆が、動かない。
 どうしたんだよ、俺!
 筆を持てば勝手に手が動いて絵ができたくらいだったのに。
 俺、何やってるんだ?
 何を描きたいんだ?
 何を描けばいい?
 わかんねーよ!
 気がつくと、ナイフで絵をめちゃくちゃ塗りたくっていた。
 みんながこっちを見ている。
 悠はナイフを放り投げ、アトリエを飛び出した。

 


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