その夜、部屋は主の帰還で一度に明るくなったようだった。
「これ、美味いんだよ、チョコレート。それから、クッキーにワインにチーズもある!」
アイちゃんもすごく嬉しそうに、藤堂の足元から離れない。
悠も、玄関に立った藤堂を見た瞬間、嬉しくて思わず泣きそうになった。
何だってんだよ! 俺……………………!
悠はわけのわからない感情を振り切るようにカンバスの前に戻る。
「美味しいお茶も買ってきたから、早速淹れよう。少し休憩しないか、悠ちゃん」
藤堂は忙しなくバッグの中から次々と土産を取り出した。
美味しそうなお菓子やワインを見るたびに、悠が喜ぶ顔を思い浮かべ、ついつい山ほど買ってしまったのだ。
「…うるさいよ! 今、大事なとこなのに!」
藤堂の手が止まる。
口にした悠自身、心が冷えていく。
藤堂が帰ってきて、あんなに嬉しかったはずなのに、口から出てきたのはそんな台詞だ。
「そうか、悪い、じゃあ、がんばりなさい」
ややあって藤堂はそう言うと、少し寂しい気持ちで、悠の背中を見つめた。
作品展まで日もないから、気が立っているんだろう。
「アーティストはご機嫌斜めだな、アイちゃん」
セーターに着替えると、いつものソファに腰をおろし、彼を追ってソファに飛び乗ったアイちゃんの頭を撫でる。
パリにいても常に考えていたのは悠のことだ。
さっき玄関に立って、迎えてくれた悠を見たとき、わかってしまったのだ。
その頼りなげな顔が愛しくて、思わずぎゅっと抱きしめそうになった。
やばいなー、これはほんとに。
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