何て迂闊だったんだろ。
俺ってバカ。
「よう、すっげーな、びっくりしたぜ」
背後から声をかけられて振り返ると、見慣れた顔が二人立っていた。
「高津、悦子…」
「大先生の展覧会みたい」
「バカ言え……」
「でも、ここ借りるの高いんじゃない? 大丈夫なの? ハルちゃん」
高津と一緒にラフな格好でやってきた悦子がこそっと聞いてくる。
「けどあれ、売れてんだろ? 上の階のやつ。赤丸ついてたし。号一で計算しても……」
「うそっ、どれよ?」
「犬とオッサンの絵だよ」
高津の言葉に、悠も耳を疑った。
「ほんとかよ?」
「何だ、お前も気づいてなかったのか?」
悠は慌てて階段を駆け上がる。
メインの絵の前は人だかりになっていた。
人垣の間からのぞいてみると、確かに赤丸がついている。
三階の作品群は、ビルの屋上に立つ男を始めとして主に空をモチーフとする、大学でずっと描きためていた絵が、四階には共通するモチーフは海とする、横たわる老夫婦やアイちゃんを描いた絵が『生きる』というテーマに沿って並べられている。
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