そのメインに置かれているのが悠の最新の作品で、開け放たれた窓の向こうに海を臨み、ソファに寄り添って眠る藤堂とアイちゃんを描いた一五〇号だ。
表現したかったのは温かさ、だった。
生きていることの温かさ。
描いてしまえば、どうとらえるかはそれを見る者次第だ。
だから、藤堂がこれを見てどう感じるのかも、藤堂次第なのだけれど。
悠は絵の傍らで、大柄な中年男性と談笑している美保子を見つけ、声をかけた。
「あの絵もほんとはギャラリーで買うつもりだったんだけど、買ってくださったの、義行さんなの」
「え……うそ…」
悠は呆然と立ち尽くす。
「あら、売れたんだ、よかったわね」
振り返ると、黒のチャイナドレスを身にまとった女が立っていた。いつぞや、藤堂の部屋に現れたさやかだった。
「でも、これは、藤堂さんが……」
そこまでしてもらうわけにいかないのに。
「人にとられないうちにってわけね、素早いこと」
さやかは小ばかにしたような口調で言った。
「だって、おいそれと買えるような値段じゃないんだぞ! こんな絵に! 第一火事で焼けだされて、あいつだって大変な時なのに!」
するとさやかが高らかに笑う。
「あなたが気にすることないのよ。義行なんて『ライラックチョコレート』の主要株主なんだし」
「『ライラック』?」
『ライラック』といえば、チョコレートで有名な製菓会社だ。
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