ああ言われたらこう言おう、と頭の中でシュミレーションまでして構えていた宮下支社長は、直接良太に何か言ってくることもなく、紫紀の提案に笑みを浮かべて頷いていただけだった。
紫紀は一応良太に対して、「こういう提案ですが、広瀬さんのご意見を伺いましょう」ととりあえずは良太を指名した。
「このプランは、この広瀬も出演するということになるのでしょうか」
思いませんか? とは言ったが、良太に出演してもらおう、と紫紀ははっきりと言ったわけではない。
「そうですね、出演していただくのが一番いいのではとは思いますが、いずれにせよ広瀬さんがいればうまく沢村選手のいいところを引き出していただけるとは思います」
やんわりとしたその微妙な発言に良太は、頭から出演なんかしませんよ、とも断言できなかった。
警戒していたおばさんではなく、紫紀にしてやられた感じになってしまった。
「紫紀さんて、たぬきなんやろかきつねなんやろか、ほんまに狐につままれたようなミーティングやったな」
藤堂が運転する帰りの車の中で、佐々木がぼそりと言った。
「はあ。京助さんが、紫紀さんのことを、あいつはほんとにくえないやつだとか前に言ってたことを思い出しました」
佐々木の隣ではあ、と良太は大きなため息を吐いた。
「この分だと、あ、そこ、ちょっと良太ちゃん沢村の横に並んで、みたいな感じでいつの間にか出演してました、ってな成り行きにならないとも限らないな」
ハンドルを握る藤堂が軽くのたまった。
「冗談で済まされなくなりそうなこと言わないでくださいよ」
そこではたと良太は佐々木に向き直る。
「佐々木さん、俺が出るようなプラン、考えないでくださいよ」
「うーん、まあ、クライアントの要望がどの程度かにもよるよってなあ」
佐々木はちょっと笑みを浮かべながら言った。
「ええ?」
途端、良太は眉を顰める。
「せえけど、こないだのレポート、良太ちゃん、よかったやん。自然な感じで。むこうさんはああいうんがほしいんちゃう? MLBの名物球場からあんなんやっといて、何でそこまで出演拒否るん?」
真っ向から佐々木にそう聞かれると、良太もすぐには返せない。
何分積もり積もったわだかまりというか、トラウマというか、そういうものが引っ掛かっているのだ。
「良太ちゃんが前にイタリアロケやったCMやドラマの時に色々大変だったから、それがネックになってるんだよね」
運転席で藤堂がまた軽く言った。
「ネックってか、だって、あれはド素人が出張って周りに迷惑かけましたってやつでめっちゃ文句も言われたし、自分の立ち位置を考えろって、痛感したんですよ」
良太は藤堂に言い返す。
「その説明は納得いかないな。あのCMやドラマ出演のあと、名だたる監督やら関係者が君のことを探してたくらいだからね。第一、誰かにちょっと文句を言われたからって引き下がるような良太ちゃんじゃないでしょ」
今度の藤堂は真面目な口調だった。
「いや、それは………」
さすがに良太もその事実は認識しているし、反論すべき言葉が見つからない。
突き詰めれば、工藤に否定されたことが一番大きな理由だったのだ。
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