空はやっぱ青い5

back  next  top  Novels


「うわ、うまいよ、これ」
 佐々木の作った玉子焼きを口にして、ウイルソンが覚えたての日本語で声を上げた。
 沢村に紹介されたこの佐々木を、ウイルソンは一目で気に入っていたので、もし仮に寿司や総菜がまずかったとしても、褒めちぎっていただろう。
 タッパに並ぶきれいな巻き寿司を良太も皿に取る。
「こっちは何?」
 ウイルソンが聞いた。
「おいなりさん。直も手伝ったんだよ」
 甘酢生姜が鮮やかに稲荷寿司を彩っている。
「うっまあ!」
 思わず良太も声を上げた。
「おいしい」
 あまり口数の多い方ではないリードも、満面の笑みを浮かべている。
「佐々木さん、ほんとに料理上手ですね」
 森村が定番のような日本語で言った。
「うちはね、母親が何もできひん人やったから、必然的に俺が作るしかのうて」
 佐々木と直子はオフィスが入っているビルの上層階にそれぞれ住居としても部屋を借りており、良太も二人の部屋を案内してもらったが、最近はすっかり馴染んでいるようだ。
 東洋商事のプロジェクトだけでなく、ニューヨークに来て最初の仕事として、佐々木はこのビルの一、二階をギャラリーとしてオープンさせるプロジェクトをウイルソンから依頼されていた。
 これまでフリースペースとして、アーティストに貸したりしていたのだが、沢村のギャラリーをやりたいという話から実現させることになったらしい。
「沢村っちも来られたらよかったのにね~」
 直子がつい口にするのを聞きつけて、「いいのいいの、あいつの仕事はホームラン打つことだし」と良太が笑う。
「まあ、花見で、佐々木さん手作りの寿司とか食べたなんて言ったら、絶対悔しがること請け合いだけど」
「良太ちゃん、面白がってるし」
 直子がケラケラと笑う。
「でも、もう明後日帰っちゃうんだ、モリー」
 パクパクと寿司を食べている森村が口を一杯にしたままコクリと頷いた。
「良太さんいないし、仕事がたくさん」
 ようやく飲み込んでから森村が肩を竦める。
「俺帰る頃には、すっかり森村がうちの会社の司令塔になってたりして」
 稲荷寿司を齧りながらぼそりと良太が呟いた。
「わけないじゃないですか。早いとこ戻ってきてくださいよ、良太さん」
 森村は森村で、良太不在の三か月が肩に重くのしかかっているらしい。
「うーん、でも、ネットプライムは三か月でも、東洋商事の方、長引くとかやめてほしいよなああ」
「良太ちゃん、宮下さんに気に入られてるしな」
 佐々木が笑う。
「ひええ、冗談でもやめて下さいよ」
 支社のプロジェクトで、先日佐々木ともども顔合わせがあったのだが、ニューヨーク支社長である宮下が良太に、全面的に引っ張っていってほしいなどと鼓舞してくれたばかりだ。
 確かに、多少なりとも信頼はされているようなのだが、宮下は未だに良太にとっては、怖いオバサンなのだ。

 


back  next  top  Novels