京助がいる間は、美味しい食事にありつけたし、亜弓や恵子もニューヨークを満喫して大満足で帰っていった。
佐々木や直子とは、たまに一緒に食事をしたりしているし、東京の会社には日に一度は電話連絡で猫のようすをきいたりで鈴木や森村と話しているし、一人で毎日アメリカ人に囲まれて過ごすことを考えていた良太としては、ホームシックになる暇もなく慌ただしい日が過ぎて行った。
ただ、工藤とはまったくいつも通り、たまに電話で話すだけなのが、少しばかり良太には物足りなく思われた。
ホームシックにはならないが、工藤の顔を見たい声が聴きたいなどと、時折発作のように思うことがあった。
「映画、もう撮影始まってるし、しょうがないけどさ」
人気推理作家小林千雪原作の検事六条渉シリーズに老弁護士シリーズの御園生弁護士と海棠弁護士を登場させたコラボ作品で来年春封切を予定している。
この映画でもキャスティングには良太が頭を悩ませたが、出演している俳優陣のスケジュールを加味して、撮影が進行している。
昨年封切られた「大いなる旅人―京都・ニューヨーク編」は日本アカデミー賞で優秀作品賞、青山プロダクション所属俳優志村嘉人が最優秀主演男優賞、同じく南澤奈々が優秀助演女優賞を取り、能楽師の檜山匠も優秀助演男優賞をもらったのは記憶に新しい。
志村はアカデミー賞では常連だが、最優秀賞を取ったことは、元々同じ劇団員でずっとマネジャーをやってきた小杉にとっては感無量だったようだ。
賞が決まった頃には既に工藤は次の仕事に向かっていたのだが。
そんなこんなで、GWも終わり、みんなが日本に帰り、ふっと良太が一人になった頃。
良太がネットプライムから帰ってリビングにやってきた途端、聞きなれた怒号に勢い込んでドアを開けた。
そこにいつものように電話で怒鳴りつけている会いたかった男の横顔を見て、良太は思わず涙ぐむところだった。
「おう、メシ、食いに行くか」
電話を終えた工藤が振り返った。
「はい、モリーが教えてくれた中華行きませんか?」
「美味いのか?」
「メチャ美味かったです」
良太は極力平静を装いながらエレベーターのボタンに触れた。
滞在は正味三日。
そのうち工藤にとって休みらしい休みは一日だけ。
ロスアンゼルスに寄ってから東京にむかうらしい。
日中、良太はネットプライムの研修だし、工藤は東洋商事ニューヨーク支社や佐々木を訪ね、それ以外にいくつか打ち合わせをこなして戻ってくるのは良太より遅かった。
それでも一緒に食事に行ったり、アパートに帰って酒を酌み交わしながら、研修のことやニューヨークでのことを良太が話すのを、たまに苦笑しながら工藤が聞いてくれるのが、良太には嬉しかった。
研修がある良太を気遣って工藤はさほど疲れさせるようなことはしなかったが、一緒のベッドに眠れることが良太はひどく嬉しかった。
ただ最後の晩、工藤は箍が外れたように良太を抱いた。
良太に己を刻み込もうとでもするかのように、わけのわからない焦燥感にかられた工藤は、少し細くなった身体を追い上げた。
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