「ただ今戻りましたあ!」
元気よく走り込むように入ってきた良太と森村は、リビングに展開されている鍋料理に、「うわあ、うまそお!」とばかり突進した。
「あ、工藤さん、ちゃんと食べてくださいよ! あ、それとさっきのスーツ一式クリーニングに出しますから、あとで渡してください」
良太は工藤を認めると、そう言いしな、取り皿を持ってすき焼き鍋に向かう。
「…yummy!」
一番端のもつ鍋に向った森村は、ちょうどそこにいた直子に皿に取ってもらった。
「全部違うお鍋だから、食べがいがあるよ」
「yep! いただきます!」
森村は素が出ると同時に英語も飛び出す。
はふはふと食べる森村を見て、周りが笑う。
「よほど腹減ってたんやな」
千雪が言った。
「あ、千雪さん!」
千雪の声に、良太がすき焼き鍋から移動してきた。
「平さんへのプレゼント、ありがとうございます。吉川さんに聞きました」
吉川が、千雪から平造へのプレゼントを預かったことを聞いたのだ。
「明日、誕生会、やるんやろ? 平さんにはお世話になっとるし」
「誕生会て、何や幼稚園のお楽しみ会みたいやん」
そばにいた三田村から突っ込みが入る。
「誕生会は誕生会や! 大人になったらバースデイパーティとかのがおかしわ。日本人が」
言い返した千雪はしゃきしゃきの野菜を口に入れる。
「あ、ははは、まあ、言い方は何でも………」
良太は間に入って気まずそうに笑う。
何せ、吉川が壁に貼った文字は、Buon Compleanno Heizo! と店がイタリアンなのでイタリア語で行こうとなったのだ。
「サプライズとか、何をするんだ?」
いつの間にか工藤が横に来て良太に尋ねた。
「工藤さんも楽しみにしててください! おかしな演出とか突拍子もないことはやりませんから」
すると蚊帳の外に置かれたようで、あのやろ、生意気に、と工藤は眉をひそめたが、「まあ、楽しみにしてましょうよ?」と秋山に言われてそれ以上追及するのをやめた。
「おい、良太」
良太が寄せ鍋に移動してバクバク食べていると、後ろから声がかかった。
「おう、沢村、今回は夕食に間に合ったんだ?」
「いいからちょっと来い」
沢村は皿を持ったままの良太を隅の方へ引っ張っていった。
「何だよ? 今日は何も問題ありじゃないんだろ?」
「加藤ってどういうやつだ?」
「はあ?」
いきなり問われて良太は首を傾げる。
「あそこで、宇都宮とか直ちゃんとかと話してる、あいつだろ? 加藤って」
「ああ、理工学部出身のIT天才肌の人?」
「だから、どういうやつだって聞いてるんだよ」
「どういうって、辻さんとかのお仲間で、猫の手軍団のヘッドっていうか、腕っぷしは強いし、頼りがいがある人?」
良太の説明に今一つ納得せず、沢村は加藤を睨み付けている。
「何なんだよ、一体」
「佐々木さんと同室なんだよ、あいつ」
「は?」
そこでようやく沢村が何を心配しているのかがわかって、はあ、と一つ溜息をつく。
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