今夜は戸川には工藤の別荘に泊ってもらうよう、杉田が部屋を用意していた。
和やかな中で会はお開きとなり、出席者の車はそのままに、タクシーに乗り合わせて帰っていく。
平造と戸川は工藤と一緒にタクシーで別荘まで行くと、工藤は平造に明日からの二泊三日の温泉旅行のクーポンを渡した。
「昼過ぎにはタクシーが迎えに来るからな」
平造はまた涙を拭い、言葉にならないまでもしきりと工藤に頭を下げた。
良太を乗せたタクシーはちょうどそこへ着いた。
「戸川さんは明日はまたタクシーになりますが、平造さんと同じ頃でいいですか?」
「わかっていたら、お二人での旅行を手配したんだが」
工藤が言うと、戸川はとんでもない、と首を横に振った。
「思いがけず楽しい時間でした。広瀬さんも何から何まで、ありがとうございます」
戸川に頭を下げられて良太は恐縮した。
「とんでもない、わざわざ遠くまで出向いてくださって、ほんとにありがとうございました。でもよかったです。お二人、今夜はごゆっくりお過ごしください」
良太と工藤は待たせておいたタクシーでまた綾小路に向かった。
「まあまあのサプライズだったな」
工藤が言った。
「ええ? まあまあはなしにしてくださいよ。水戸まで行って戸川さんに交渉したり、樽酒を頼んだり、いろいろ大変だったんですから」
「フン、杉田の時はまた期待されるぞ? 次はどんなサプライズだ?」
良太はうっと言葉に詰まる。
「そんなのまだ、全然わかりませんよ。杉田さん、四月でしたっけ? 工藤さんも何か考えてくださいよ。一番付き合いが長いんですから」
ブツブツと良太は口にする。
「でも戸川さん、すんげえいい人なんですよ。俺が訪ねて行った時も初めて会ったのに、歓待してくれてお昼までごちそうになっちゃいましたよ。平造さんの誕生会のサプライズ計画を話したらもうすぐにでも行くくらいの勢いで」
「平造も頑なだから、郷里を出てから自分を友人と言ってくれる人間がいるとも思っていなかったんだろう」
工藤にしてはしんみりとした声で言った。
平造にも自分の出自のことで肩身の狭い想いをさせていたのだろうことは想像に難くなかった。
平造こそ組とは今は何の関係もないのだ。
良太に以前言われたように、自分の親のように中学の時から工藤を見守っていたのは平造なのだ。
「平さん、去年ばったり戸川さんに会って話した時、組にいたことや刑務所にはいったこともあるって話したそうなんです。でも今はうちの会社で世話になって今はいい人生だって。工藤さんのこともきっぱり縁を切っているのに、周りにはいろいろ言われるから腹立たしいって」
訥々と良太が話すのを聞いていた工藤はぐっと拳を握りしめた。
「それに会社は今の自分には家族みたいなもんだって、平さん、言ってたらしいですよ」
工藤は苦笑いした。
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