「何せこの平造ってやつは、中学を卒業するとふいっと水戸を出て行ってそれっきり。もともとむっつり一人でいるようなやつで、まあ、両親を早くに亡くして親戚を転々としてたらしくて、捻くれてもしょうがないかってとこだったんですが、とにかくかわいげのないやつで、それでも野良猫を可愛がったり、こそこそ倒れた花壇の花を直したり、何か憎めないやつで」
平造はそんな戸川の話を聞きながら腕で顔を拭っている。
「たまに、横浜あたりでどこかの組のパシリになったとか噂を聞いたりすると、ちゃんと生きてるのかななどと思い出していましたが、思いがけず再会できまして。それが先週、平造の誕生会をやるからサプライズに来てくれと、そこの広瀬さんがわざわざ店までやって来て頼まれましてね」
戸川は良太の方を見てちょっと会釈した。
「どんな誕生会やらと思って来てみたら、こんなに皆さんに慕われて誕生日を祝ってもらえるなんて、平造はほんとに幸せ者だと………感無量です」
最後は戸川も目頭を押さえる。
スタッフに木槌を渡された平造は戸川と一緒に樽の蓋を叩いて鏡開きとなった。
わっという歓声と拍手の中、工藤が平造の横に立った。
「社長の工藤です。お寒い中わざわざご足労いただき、ありがとうございました」
「こちらこそ、私が言うようなことではないとは思いますが、平造を大事にしていただいてほんとにありがとうございます」
戸川と握手を交わした工藤はみんなの方に向き直った。
「今夜は平造のためにお集まりいただき、ありがとうございました」
工藤の短いだろうスピーチの間にも、スタッフと吉川によって樽酒は桝に注がれて皆に配られた。
「おめでとう。平造、末永く達者でいてくれ」
工藤が言って桝酒で乾杯となり、みんなの拍手で締めくくられた。
コース料理が振舞われたが、同じテーブルでボソリボソリと言葉を交わす平造と戸川には、皆が訪れて酒を注いだり、携帯で写真を撮ったりして和やかに過ぎた。
ドルチェになってフルーツのマチェドニアが軽く出てきたと思えば、その後には杉田が吉川の手を借りて作った大きなバースデイケーキが登場し、また場が沸いた。
今夜来られなかった志村や小杉、奈々や谷川、それに真中からの動画メッセージを、良太がタブレットで平造に見せたりしつつ、和やかな時間が過ぎて行った。
従姉の小夜子や紫紀からもプレゼントを預かってきたと、千雪が平造に渡したのは、イタリアンブランドの銅製の鍋やフライパンなどのキッチン用品だという。
「京助からは財布とキーケースやて。俺は月並みやけど手袋とマフラー」
直子やアスカと一緒にタブレットの動画を見ている平造と戸川を見ながら千雪が言った。
「俺も月並みですけどセーターにしました」
良太も隣に座って顔を赤くして笑う平造たちをぼんやりと見つめる。
「しかしこんな女優さんや俳優さんに囲まれて、沢村選手まで駆け付けてくれるなんて、お前はほんと幸せ者だ」
人の好さそうな顔で戸川はしきりと平造を感心していた。
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