平造は誕生日の食事会に工藤や良太、それにアスカや小笠原ら社員が集ってくれているとだけ秋山から聞いて、ジャケットを羽織っただけでやってきた。
「お誕生日おめでとうございます!」
だからドアを開けた途端、大勢の歓迎を受けるとは思ってもみなかった。
拍手の嵐にしばらく呆然と突っ立っていた平造の前に、工藤が一歩歩み出た。
「驚かせたな。みんなお前のために集まってくれたんだ。今夜はゆっくりしてくれ」
「わしなんかのために………ありがたいことです……」
平造の言葉はそこで詰まった。
するとみんなが「おめでとうございます」と入れ代わり立ち代わり各々プレゼントを差し出した。
平造が受け取ると、秋山がそれを丁寧に後ろのテーブルに置いて行く。
オーナーシェフの吉川までが平造の好きなワインを贈ると、言葉もなくただ頭を下げていた平造が手の甲で潤ませていた目のあたりを拭う。
皆がそれぞれのテーブル席に戻ると、何で驚けというんだ? とばかりに工藤は腕組みをして、正面に設けてあるスペースの方を見た。
「皆様ありがとうございました。大変恐縮ですが、お食事の前にちょっとしたサプライズを用意いたしましたので、今少しお時間をいただきたいと思います」
良太がスペースの左端に立ってそう告げてすぐ、スタッフがキッチンからカートを押してきた。
二人がかりでカートから降ろしたのは一斗樽で、縄で締められた樽には戸川酒造と桜山という文字が書かれている。
それを見た平造は、ハッとしたように樽を見つめた。
「皆様、ご推察の通り、鏡開きを平さんにお願いしたいと思いますが、その前に、このお酒について少々」
良太は一息ついて続ける。
「この桜山は平造さんの生まれ故郷、水戸市に二百年続く造り酒屋戸川酒造さんの銘柄です。ここでお客様をご紹介したいと思います」
すると奥のスタッフルームから老齢の男性が吉川に案内されて現れた。
「戸川酒造前当主戸川蒼佑さんです」
平造は今度は拍手で迎えられた戸川を見つめて呆気に取られていた。
「戸川です。突然変なヤツが現れてすみません。実はこの平造の小学校からの同級生で、つい去年だったか、水戸に墓参りにやってきた平造と何十年ぶりかで逢いまして、酒を酌み交わしたような次第で」
なるほど、サプライズってこのことだったか。
工藤はパリっとしたスーツに身を包んだ恰幅のいい男を見てフッと笑う。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
