花さそう73

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 フン、と鼻で笑い、工藤はグラスを傾ける。
「それで? いつから撮る?」
「佐々木さんのスケジュールさえ押さえられれば、来月末辺りからと考えている。近いうちにミーティングだから、空けとけよ」
「俺のことはまあ、今ならどうにでもなるが、佐々木さんって、あの麗しの?」
 下柳は不思議そうな顔で工藤を見た。
「麗しのって、昭和か」
「ああ、俺なんか昭和でも大正でも明治でもだ。ってより、あの人、前線で突出してるクリエイターだろうが」
「メインは母親の佐々木淑子だが、佐々木さんも子どもの頃から茶道をやらされて立派な茶道家だ。ここは佐々木さんにも登場してもらうことで世間の目を集める」
 工藤はざっくりと説明した。
「なるほど、客寄せパンダか、佐々木さん。しかしよく承知したな? あの人自分が映像とかになるの嫌いだろ?」
「情報によると、母親の命令にはうんと言わざるを得ないんだと」
「なるほど」
 工藤は既に良太から佐々木が出演を承諾したと聞いてはいた。
 佐々木には申し訳ないとは思うものの、佐々木を担ぎ出すにはほかに手立てはなかった。
 出演を依頼しているのは、大方が佐々木淑子よりは若い世代になるが、文化や伝統を継承していくという意味合いにおいては、淑子から佐々木へという絵面がこのプロジェクトの主旨にはまることは間違いない。
 無論、佐々木は稀代のクリエイターではあるが、何も肩書は一つである必要はない。
「しかし、佐々木さんの母親だろ? かなりばあさんなんじゃねえの?」
「フン、確かにな。茶道師範なんざ、大抵ばあさんじゃないか」
 確かに、年齢的にはばあさん、だろうが。
 下柳も会ってみればわかるだろう、と工藤はほくそ笑む。
「まあ、お前は昔からばあさんには弱かったよな」
「何だソレは?」
 工藤はムッとする。
「いや、ばあさんやオバサンに何か言われると、鬼が引っ込むよなっての」
 ウンザリと、工藤はグラスを空にした。
「まあ何でもいいが、年だとか何とかもう言うんじゃねぇぞ、鬼の科白じゃないだろうが」
 下柳があらためてきっぱり忠告すると、こちらも残った酒を飲み干した。
 バーを出ると、良太ちゃんに今度飲もうぜって言っとけよ、と別れ際言い残して、下柳はタクシーに乗り込んだ。
 ちょうど来たタクシーを拾い、工藤は乃木坂に向かう。
 たまには高輪に帰ろうかとついさっきまで思っていたのだが、何となく良太の顔が見たくなった。

 


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