花さそう77

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 竹野が小林千雪の小説のファンだということで実現したドラマ出演で、そのために急遽老弁護士シリーズ十周年記念番組などというサブタイトルを取ってつけられて今さらコケるわけにはいかず、さらに竹野の希望で原作者との対談が用意された。
 ドラマの宣伝番組で十五分ほどだが、無論ネット配信もされるし、SNSでもかなり前から番宣に力を入れている。
 最初、竹野と千雪だけで十分ほど、その後、主演の老弁護士役の端田と若手弁護士役の大澤が加わることになっている。
「千雪に逃げられるなよ」
「わかってます。三十分は早く部屋まで行くつもりだし」
 良太はきっぱりと言った。
 対談やテレビ出演を極端に嫌がる千雪を何とか説き伏せて対談にこぎつけたのだ。
 ちゃんと間に合うように直接良太が千雪の部屋まで迎えに行くことになっている。
 時間より三十分早く行くのは、千雪にバックレられる可能性が無きにしも非ずだからだ。
 あの人は、下手するとホントにバックレるからな。
 三十分でもほんとは心配だが。
 さらに明日はまた難関が待っている。
 沢村を伴って佐々木や藤堂とともにいよいよ東洋商事へ乗り込むのだ。
 途端にあの、宮下東洋商事営業第一部本部長の顔が脳裏に浮かぶ。
 今度は絶対、失言しないようにしないと。
 しばらく食べるのに専念していたその時、良太の携帯が鳴った。
「え、亜弓?」
 会社の家族サービス以来、妹の亜弓にも親にも連絡をする余裕がなかった良太は、何だろうと思って電話に出ると、亜弓が研修会で東京に行くから部屋に寄るという。
「……寄るって、いつだよ? 俺、今日明日は超忙しいから……」
「金曜日。週末、ついでだから一泊して行こうと思って」
「え、でも俺の部屋、泊めるようなスペースないぞ」
 焦りまくった良太は、思わず工藤が出現させたドアへ視線を向ける。
 この部屋に工藤以外で入ったのは最近では内装をやたらゴージャスにしてくれた平造と猫の世話をしてくれた鈴木さんだけだ。
 亜弓が以前部屋に来た時は、家具も何も前のアパートから持って来たパイプベッドやパイプハンガーと炬燵くらいだったはずだ。
 それがこうも変わっていたら、絶対何か言うに違いない。
「わかってるわよ。ちゃんとホテル取ってあるし。ちょっと寄るだけよ。ナータンにも会いたいし、チビ猫ちゃん、まだ会ってないし」
「あ、ああ、まあ、わかった。こっち来たら連絡いれろよ。俺、仕事で遅くなるかもだし」
 じゃあね、と亜弓が電話を切ると、良太はしばし逡巡した。
 このゴージャスな変貌を何て言い訳すればいいんだっ!
「妹さんが来るのか?」
 コーヒーを手にした工藤が聞いた。
「ああ、ええ、週末、研修で。ホテルは取ってるみたいですけど」
「撮影なら、森村に行かせればいいだろう」
「え、いや、まあ、また考えます」
 金曜は『今ひとたびの』のロケが夜まであるが、何も問題がなければ森村にまかせて少し早めに良太だけ抜けることもできなくはないかも知れない。
 そうすれば亜弓と食事くらいはできるだろう。

 


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