花さそう78(ラスト)

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 それに、亜弓はどうやら良太と工藤との関係に気づいているようだ。
 良太ももうごまかすつもりはないのだが。
 けれどやはり、相手が工藤だということより、沢村と佐々木のような明確な恋人同士ではなく、微妙な関係だということが良太にとってはネックだった。
 それを言葉にして伝えるのは難しい。
 黙って食べ終えると、良太は食器を持ってシンクに立った。
 俺がこのオヤジが好きだってことだけは確かなんだけどさ。
「食洗機を使えばいいだろう」
 いつの間にか後ろにいた工藤が自分のカップをシンクに置いた。
 部屋をゴージャスにしてくれた時、平造はシンクも食洗機やオーブンのついたシステムキッチンに換えてくれたので、たまに使ってはいる。
「このくらい手で洗った方が速いんです」
 良太は皿やカップをちゃっちゃか洗うと、傍らの水切りラックに置いて、キッチンペーパーで手を拭いた。
 途端、頭を掻き回されて、「何だよ」と振り返ったところを、顎を掴まれていきなりキスされた。
「ちょ、何……」
 一旦離れたと思った唇がまた塞がれる。
 しかも段々深くエロくなる口づけに良太は次第に身体から力が抜けていく。
 流されそうになって良太は工藤の胸を拳で小突いた。
「な……んだよっ! こんな朝っぱらからっ!」
 ようやく工藤は良太を離すと、フンと鼻で笑い、またドアを開けて自分の部屋に戻って行く。
「ったく、俺は仕事なんだからなっ!」
 二人の時はイチャイチャしてる、などと言っていた森村の言葉が頭に浮かんで、息を整えながらも良太は顔が沸騰しそうになる。
「んとに、何だよ、意味不明………」
 いつもは仏頂面しか見せないくせに、時々気まぐれに、まるでガイジンみたいなマネするんだからな、あのオヤジ。
 まだ心臓のバクバクもおさまらない。
 クッソ! ……ンとに、俺ばっか好きなんだよな。
 ちぇ、仕事に行きたくなくなるじゃん。
 先にホテルに行ってスタッフと打ち合わせをしてから、千雪を迎えに行くつもりだ。
 今日は別行動なので、森村には直接ホテルに行くように言ってある。
 良太は身支度を整えると、鏡の前でネクタイを直す。
 ちぇ、工藤が珍しく時間あるのにな。
 鏡の中に少しばかり不満そうな表情の自分がいた。
「あ、そうだ」
 出かける前にノックして隣へのドアを開けた。
 工藤は相変わらずバスローブのまま、タブレットを覗き込んでいる。
「夜、森村が身体空くんで、連絡してくれれば迎えに行かせます」
「ああ? お前は?」
 不服そうな声で工藤は聞いた。
「俺は、竹野さんの接待です」
 千雪との対談の後、対談のメンバーを食事に誘ったが、案の定、竹野と一緒だと嫌だと千雪がごねるし、大澤や端田はスケジュールが詰まっているらしく、また打ち上げを楽しみにしていると言われ、結局竹野御用達のレストランで二人で食事をすることになったのだ。 
「そんなもん、サッサと終わらせればいいだろう」
「そんなこと言われても……あ、もう、こんな時間! じゃ、連絡下さい!」
 良太はドアを閉めると、コートを掴んで部屋を出る。
 何だか工藤、俺に迎えに来いって言ってるみたいだけど。
 季節はまだ真冬で、今日も時折強いビル風が吹き込んでくるが、良太はそんなことが妙に嬉しくて胸のあたりが何だか温かい気がする。
 知らず良太は笑みを浮かべながらエレベーターのボタンを押した。

   - おわり -

 


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