春立つ風に127

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 良太は拳を握りしめてしばし工藤を睨みつけていたが、やはりこれ以上何を言ってもこの男は良太の言葉など聞く耳を持たないのだと思い知った気がした。
 もう、知るもんか!
 良太は踵を返して、神社の奥へと向かった山根を追った。
 その様子を見ていた千雪は、「あーあ」と口にする。
「あかんがな、工藤さん」
 工藤はイラついて千雪を振り返った。
「何がだ?! お前もこんなところでグダグダしてないで、とっとと行ったらどうだ?」
 だが、千雪はさらに工藤に近づくと、「良太、駐車場で工藤さんと柏木弁護士が抱き合うてんの見てしもたみたいやし」と工藤にだけ聞こえるように、ボソリと言った。
 それを聞くと、工藤はさすがに一瞬狼狽えた。
「何だと?」
「知りまへんで? 頭ごなしに怒鳴りつけてもて、後々面倒なことになるんちゃいますか?」
 しれっと言いおいて、千雪は良太の後を追った。
 さすがに苦々しい顔で、工藤は神社の奥へと視線を走らせた。
 誰が、抱き合っただ!
 あれは何やら感極まったらしい柏木が勝手に抱きついてきただけだ!
 俺とあの女がどうとか、あるわけがない!
 工藤は心の中で声を大にして喚き散らす。
 第一、再三波多野からもあの女に気をつけろとか、耳タコだ。
 ったく、冗談じゃない!
 だが、そんな工藤の声は良太に届くはずもなく、良太は良太で静かに怒りまくっていた。
 柏木弁護士にウツツを抜かして、足元でもすくわれろってんだ!
 良太はドスドスと無暗に足音をさせて、ロケ現場へと上がって行った。
 『いまひとたびの』の撮影は無事終わり、クルーがバラバラと階段を降りてくると、『大いなる旅人』の撮影陣はまだ撮影中で、竹野が見学したいというので、良太もしばし付き合った。
 南澤奈々は別のスケジュールがあり、二日前にアップして抜けているので、主演の多喜川誠と志村嘉人、教授役の橋本祐三、安倍晴明役の檜山匠を中心に、ワキを固める俳優陣が最終章の撮影に臨んでいた。
 休憩になったところで、竹野と良太は車へと向かったが、撮影陣は暗くなってからもあと数カット撮ることになっており、工藤と日比野、撮影クルーのリーダーが難しい顔で声高に何やら話し込んでいる。
「良太、帰るのか?」
 竹野を促して良太がその場を離れようとした時、匠が声をかけてきた。
 良太がちょっと工藤と言い争いになった時も、今日はかなり役に入り込んでいた匠は一人自分の世界にいるようだった。
「今夜は同じホテルに泊まることになってる。あ、こちら、竹野紗英さん。能楽師の檜山匠さんです」
 良太は二人に双方を紹介した。
「なんか、すごかったです。ワンシーンだけでも引き込まれそうな感じでした」
 竹野が率直な意見を言った。

 


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