「柏木弁護士が、以前MBCの顧問弁護士事務所にいたことは話したよね?」
「あ、ええ」
多分その時に工藤と何かあったのだろう、と良太は思っていた。
「その頃、局に出入りしていた時に、工藤さんと面識があったという話だが、MBCの知り合いがたまたま、二人一緒のところをみたらしいんだ」
良太はあまり聞きたくないなと思いながら聞いていた。
「それが、また、柏木弁護士が工藤さんに告ったとこで、柏木弁護士は当時局内でも俳優やモデルとは違う、ちょっと高嶺の花って感じで男どもは気にしないではいられなかったんだろうな、ついついその人聞き耳立てちゃって、そしたらさ、工藤さん曰く、『決まった相手は作らない主義だ。遊びならつきあうぞ』って」
それを聞くと、良太は「何様だよっ」と思わず口走る。
「まあねえ、工藤さんだからこそだよな。聞いてたやつも、柏木弁護士が走り去るのを見て、工藤さんに腹立てたって話」
おそらく工藤は亡くなったちゆきさんのことを忘れられずにいたんだろうと、良太は改めて思う。
工藤をワンクールで振ってやったと豪語する大御所俳優山内ひとみも言っていたではないか、いつまでも昔の人が忘れられない、センチメンタルな男だと。
聞けば柏木弁護士は工藤や桜木ちゆきと同じ宮島ゼミの後輩にあたるという。
ちゆきの自死は諌死として当時としてもセンセーショナルだったろうし、後に工藤やちゆきの同期である小田弁護士や荒木検事によって、桜木ちゆきの父親であり贈賄疑惑の渦中にあった桜木代議士は辞職に追い込まれ、政界から追放されるという一件へと繋がっている。
「まあそんなことだったらしいから、工藤さんが柏木弁護士とどうとか、なんてことはないと思うよ」
どうやら藤堂は良太にそれを言いたいがために、古い小ネタをほじくりだしてくれたらしい。
「はあ」
有難いと同時に、やっぱり藤堂には見透かされていると良太は思わずにいられない。
けど、昔はそうだったかもだが、京都で工藤と柏木弁護士がどうだったかなんてわからないからな。
心の中でだけ良太は突っ込みを入れる。
佐々木オフィスに出向くのは久しぶりだった。
藤堂に続いてオフィスに足を踏み入れると、「いらっしゃいませ! わ、良太ちゃん、久しぶり!」と早速佐々木のアシスタントの池山直子が二人を歓迎した。
「良太ちゃん、久しぶり」
佐々木もモニターから顔を上げて笑みを浮かべた。
「直ちゃん、シュークリーム」
藤堂は鈴木さんに渡したのと同じ紙袋を直子に渡した。
「わあ、ありがとう! じゃ、お茶入れるね。コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「鈴木さんに紅茶を頂いてきたばかりだからね」
「じゃ、コーヒーにするね」
いそいそとシュークリームを持ってキッチンに向かう直子から、良太はさっきから気になっていたソファにふんぞり返っている場違いな男に顔を向けた。
「何で、お前、こんなとこにいるんだよ」
「るせえな。今日はオフだ、オフ! それにCMが完成間近っていうから、見せてもらうんだよ」
不遜な物言いで良太に言い返した大柄な男は、長い脚を組んで鼻で笑った。
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