春立つ風に143

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「まあ、沢村くんがいるからちょうどいいんじゃないか? これで関係者揃ってるし、CMデータ見せてもらって、意見を交換すれば」
 藤堂は沢村に苦笑しながらコートを脱いだ。
 直子がコーヒーをみんなに渡し、シュークリームをテーブルの上に置いた。
 さすがに大きなシュークリーム二個はと思っていた良太だが、藤堂の提案で一つを半分ずつにしたところ、ペロリと平らげてしまった。
「やだ、良太ちゃん、クリームついてるよ、そこ」
 直子に笑われながら濡れティッシュを渡されると、良太は慌てて頬を拭う。
「ったくガキだよな、いつまでも」
 バカにする沢村に「っせえよ!」と良太は歯をむくとさらにみんなに笑われる。
 コーヒーとシュークリームを堪能したあとは、藤堂のいうとおりみんなでCM鑑賞会となった。
 東洋グループのCFプロジェクトである。
「あ、直、これ、好き!」
 雪原と遠くに雪で化粧をした樹木の群れ。
 その中を一人、白い息を吐きながら沢村が歩いている。
 キタキツネが通り過ぎるシーンは別に苦労して撮ったものだ。
「すんごいステキ!」
 そんな風に視聴者に言ってもらえれば、北海道の果てまでロケに行った甲斐もあったというものだが。
 沖縄では透き通った海を沢村がホワイトシェパードと一緒に走っている。
「これもいいね。第一弾の日本編としては上出来だよね」
 藤堂が一人頷いた。
「宮下東洋商事営業第一部本部長には文句を言わせないできあがりですよ」
 一見優しそうで口を開くと淡々と怖いオバサンだからなあ。
 良太は宮下本部長の顔を思い浮かべた。
「佐々木さんはどれがいいんだ?」
 沢村が聞いた。
「この中では下町の猫と子どもが割と気に入ってるかなあ」
 佐々木は小首を傾げながら言った。
「まあ、第二弾の、ニューヨークとフィレンツェ、ケニアロケもタイトやから、心してかからんと」
「アフリカのことはヤギさんにもお願いしてるし、カメラマンの有吉さんがたまたまいて、どういう風の吹きまわしか一緒に行ってくれるっていうし」
「ああ、有吉さん、ええ表情撮らはるよねえ、動物たちの」
「何だよ、その有吉って」
 佐々木が褒めるのが沢村は気に食わなくてムキになる。
「ああ、レッドデータ撮った頑丈そうな人?」
 藤堂が言った。
「ええ、そうです」
 ヤギさんというのは、工藤と同じMBCにいた今はフリーのディレクターである。
 有吉は良太を見るとからかいにくる、良太にしてみれば面倒なカメラマンだが。
 束の間の和やかな雰囲気は、良太の携帯のコール音に邪魔された。
「はい、何かありましたか?」
 千雪からである。
 良太は皆から離れて電話に出た。

 


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