春立つ風に145

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「こそこそ何の相談だよ」
 気が付くと沢村が見下ろしている。
「千雪さんと、別のドラマの打ち合わせだ」
 良太は適当にごまかした。
 沢村に事実を話して、せっかく乗り気な仕事の邪魔になるようなことはしたくない。
「それより、ニューヨーク、ケニア、フィレンツェって、お前スケジュールに響かないか? かなりな強行軍だぞ」
「今さら何を言ってんだ。お前が俺の窓口なんだろ?」
「そんなの名目上だろうが、このメンバーじゃ」
「フン、まあ、今年のスケジュールに響くようなら、シーズンオフに引退宣言でもすれば……」
 そんなことをしれっと言う沢村に、「またお前はそういうことを!」と良太は怒る。
「お前、アスリートの寿命なんざ、怪我やら何やらでいつどうなるかわからねえってのが常識だろうが。俺は徐々に打てなくなってフェイドアウトなんてマネはごめんだ」
「そん時はそん時だろうけど、今年沢村がそんなんじゃ困るんだよ! 俺が!」
「お前の都合に合わせて打てるかよ!」
「ピッカピカのグローブ自慢してたくせに、打てよ! 沢村なら!」
「お前のグローブがボロッちすぎんだろーがよ!」
 段々、話の内容の次元が低くなりつつあるのを聞いて、藤堂が吹き出した。
「こらこら。俺と河崎の幼稚園時代のやり取りとどっちこっちになってるぞ、君ら」
 直子もツボにはまってしまったらしくお腹を抱えて笑っている。
「やっだもう、良太ちゃんも沢村っちも、野球少年に戻っちゃってるし!」
「佐々木さん、こいつの正体わかってます? こんななりして、中身はガキん時のまんま!」
 良太は佐々木に訴えかける。
「全くや。時々、我儘小僧の駄々こね発令しよるからな」
 佐々木が画面を見ながら、そんなことを言う。
「ちょっと、佐々木さんまで、ひでえな」
 情けない表情の沢村に、またみんなが笑う。
 ああ、なんか、平和だ。
 良太は思う。
 日常はこうでなくっちゃ。
 切った張ったの事件に巻き込まれるのはゴメンだって。
 藤堂はまた良太を青山プロダクションまで送ってくれたので、良太は車の中で、千雪から得た情報をざっと話した。
「柏木弁護士が仕組んだことか」
 藤堂は話を聞いて、しみじみと言った。
「父親もにっちもさっちもいかなくなってたんだろうが、今はアルツハイマーで何もわからなくなっているというのも、幸せな男だよな。代わりに娘は地獄を見たわけだ」
「ひどい話だと思いますけど、俺も、父親が保証人倒れして、負債抱え込んだ時、何とか家族を助けたいと思いましたもん。彼女も父親を見捨てることはできなくて、深みにはまってしまったんだと」
「良太ちゃんは優しいね」
 藤堂は微笑んだ。
 

 


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