「お電話かわりました、広瀬です」
相手はランドエージェントの社長、野口だった。
まだ苦手感が消えない海老原でなくてよかったと思いながら話を聞くと、今日海老原が戻ってくるので、今夜時間があれば夕食に招待したい、という。
「え、今夜、ですか、ええっと………」
海老原と食事なんぞ即断りたいところだったが、残念ながら、というべきか、今夜は久々良太にとって時間があくのだ。
何か理由をつけて、と良太が逡巡していると、「海老原が何かと広瀬さんにご迷惑をおかけしたことは、美亜からも聞き及んでいます」と野口が言った。
「今夜は、そのお詫びもかねて、海老原と美亜、あと私が参りますので、広瀬さんとご都合がつけば小笠原さんにもぜひご一緒に」
どういう風の吹きまわしか知らないが、美亜や野口も一緒でというならと、良太は思う。
それに美亜との食事の話を断ったりしたら、小笠原が怒りそうだ。
「わかりました。小笠原に確認いたしまして、後ほどご連絡申し上げます」
美亜と小笠原がどうなっているかわからないが、美亜は小笠原に対して好意的な印象はある。
宇都宮と小笠原のドラマのタイトルについてのミーテイングを週明けの午後イチで行うからと、局のプロデューサーから先ほど連絡が入った。
工藤がいないのだから良太が顔を出すしかないか、などと思いつつ、スケジュール調整をしていると、ドアが開いて、「ああ、疲れたああ、何でこっちも寒いのよ~」と大きな声で文句を言いながらアスカが入ってきた。
続いて入ってきた秋山もいつものエリートな表情に疲労を滲ませて、「ただ今戻りました」と言った。
「お帰りなさい、お疲れ様でした」
アスカは久しぶりの映画で主役を張っている。
今回はここ二週間ほど函館ロケで東京を離れていた。
「お土産いっぱい買ってきたよ~」
秋山が両手に持っていた紙袋をテーブルの上にあげると、アスカはチョコレートやカステラ、チーズケーキなどが入った箱を取り出した。
「良太もおいでよ」
忙しいのはやまやまだが、ここでアスカの機嫌を損ねるのも得策ではない。
「美味しそうなのいろいろありますね」
良太もお菓子の箱の山を見ると、微笑まないでいられない。
「あらまあ、たくさん!」
にこにこと鈴木さんはお菓子の山を眺めた。
「良太、工藤さん、まだ戻ってないんだ?」
小笠原に連絡しなけりゃな、とぼんやりお菓子に目を置いていた良太は、「来週の火曜戻るみたいですよ」と言いつつ現実に引き戻される。
「あそ。良太、怯んでちゃダメよ? 変な女にウツツぬかすなって、工藤さんにはっきり釘刺しとかないと!」
一応オフィスで身内だけだからとは考えてくれたのだろうが、それこそはっきりくっきり、アスカは良太をたきつけてくださる。
言えるもんならとっくに言ってるって。
はあ、と一つ小さく溜息をついた良太は、アスカがつけたテレビに何気なく目を向けた。
するとお昼のニュースに聞き知った名前が耳に飛び込んできた。
「兵庫県警は既に逮捕されている篠原孝蔵容疑者が横流しした覚せい剤などを売りさばいていたとして、神戸市兵庫区の大石健一郎容疑者を先ほど逮捕しました」
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