「そうだぞ、お前、このままだと、プロデューサー良太ちゃんに乗っ取られるぞ」
坂口が面白がってさらに茶々を入れる。
「だったらそれでいいだろう」
工藤は適当にいなす。
「よくないです! 俺は乗っ取りたくなんかないんで、帰って休んできっちり出てください。今タクシー捕まえますから」
語気を強めて、良太はビシバシ言い放つ。
「るさいな。わかったわかった」
工藤が押され気味のようなのは、やはりかなり疲れているのだろう。
大通りの方へ走って行くと、良太はタクシーを停めて、工藤を呼んだ。
「あれ、そう言えば工藤さん、荷物それだけですか?」
工藤はブリーフケース一つ手に持っているだけだ。
「隅田が現場から帰る時にオフィスに届けてくれる」
「そうですか。じゃ、ミーティング午後イチですから、よろしくお願いします」
工藤がタクシーに乗り込むと、良太は言った。
「ったく、あのやろ、人に指図しやがって」
運転手に乃木坂を告げて、タクシーが走り出すなり、工藤はブツブツ口にして、鼻で笑う。
バックミラーで運転手が訝し気に工藤を見た。
京都の山の中で撮影を続けていたからか、工藤は久々の東京の街は日常と隔絶した異境から現実に引き戻されたかのような錯覚を覚えた。
は……、俺もいよいよ焼きが回ったな。
良太が聞いたら、あのやろう、ここぞとばかりに、いい年なんだからとか何とか言うに違いない。
オフィスに戻るとまだ七時を回ったところだった。
工藤は自室に上がり、シャワーを浴びるとベッドに横たわり、少し眠るだけのつもりが、携帯が鳴る音で目が覚めると既に十一時になろうとしていた。
「東京に戻らはったてさっき良太に聞いたんで」
相手は千雪だった。
「あいつら、京都は引き上げさせたんだろうな?」
「ええ、まあ。最後にちょっとした小競り合いがあったんで、やっと一仕事した気になってましたわ」
「小競り合い?」
工藤は怪訝な面持ちになる。
「ああ、やっぱ大石の手のもんが何人かで工藤さんに奇襲をかけるつもりやったらしゅうて淳史らが蹴散らしよったんやけど、飛び道具なんぞ持っとるやつもいて、ほんでもモリーやモリーの上司らしき人が叩きのめしてくれはったから」
「小競り合いどころじゃないだろ。いくら腕に自信があろうが、素人がそんな連中にわざわざかかわるな!」
怒気を顕わに、工藤は怒鳴りつけた。
「電話口で怒鳴らんといてください。せや、『猫の手』軍団の諸経費、ほんまに良太に請求してええのんか、聞こう思て」
工藤は舌打ちした。
「あのバカ、何を寝言を言ってるんだ。いいから俺に回せ」
「了解です。ほな、よろしゅうに」
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