春立つ風に19

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 そう言えば、秋山も今朝がた、気をつけてとか言ってたよな。
 しかも行ってみるとか言い出すし。
 海老原って、そんな面倒なヤツとか?
 まあ、さっきも結構色々つついてきたよな。
 海老原の雰囲気に苦手意識が働いて、良太は初めからあまりお近づきにはなりたくないとは思っていたから、ダメ出ししてくるのならとっとと次を探したい。
 社長の野口って人はにこやかで人好きする感じなのに、よくあの海老原とやっていけてるよな。
「おっと、いけね!」
 八時四十五分になっている。
 良太は携帯と財布と名刺入れをポケットに突っ込むと、コートを掴み、バタバタと部屋を出た。
 エレベーターで一階まで降りると、ビュービュー風が吹きすさぶ。
 オフィスに続く階段の前でコートを羽織り、海老原を待った。
 薬はさっき飲んだものの、気だるさは完全に引いていない気がする。
「またぶり返しはゴメンだぞ」
 九時少し前に、一台のどっしりとしたセダンがすっと良太の前に停まった。
 ローアンバーのベントレーとは少し意外な気がした。
 海老原のイメージだとマセラッティとかランボルギーニで現れそうだったからだ。
 しかも運転手がドアを開けて良太を促した。
 運転手は年配の男性で礼儀正しい。
「ありがとうございます」
 後部座席の海老原の横に座ると、「またしっかり着込んでいるね」と海老原が言った。
「何か凄い風で、寒いのが苦手なんです」
「なるほど。しかし若いのにえらく渋いの着てるね。君なら若手のブランドで明るい系のタイとか似合いそうなのに」
 海老原はダークな紺色のスーツに同系色のドット柄のタイをしていた。
「いや、高級バーとかあまり入ったことがないので、落ち着いた色の方がいいかと思いまして」
「考えてくれたんだ?」
 含み笑いで海老原は良太を見た。
 ちぇ、バカにしてろよ! どうせ、そんな高級な店、俺には用がないって。
 とは心の中で呟いたものの、無論表には出さない。
「俺はね、顔が派手なんで、派手なもの着たらピエロか演歌歌手、いや、こういう言い方すると今は差別とか言われるかもだが、だからなるべく地味なヤツを着ることにしている」
「そうなんですか」
 なるほど海老原は海老原でそれなりに苦労があるわけだ。
「君は面白いね、日本人の営業マンだと、そこで絶対と言っていいくらい、とんでもない、って軽く否定するんだよ」
「あ……や…、すみません」
 あちゃ、またやっちゃったか。
 良太は心の中でちょっと焦る。
 どうせあたしはアクが強いわよ、というアスカに、そうですよね、と頷くと、そこは否定するとこでしょ、とよく言われるように、頷いていい場合とそうでない場合を考えて口にしないと。
 根が正直で、おべっかが使えない良太は時々そんなことを考えたりもするのだが。
 


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