春立つ風に20

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 さほど時間もかからずに店の入っているビルについた。
 車は地下駐車場に入って行く。
 運転手はエレベーターの近くでドアを開けて二人を降ろすと、奥の方へ車を移動させた。
 エレベーターが来ると、海老原は先に良太を乗せてから自分も乗り込んだ。
 一階で数名の男女が乗り込んできた。
「あら、礼央、日本にいたの?」
 頭のてっぺんからつま先までファッション誌のモデルのようにきっちりコーディネイトした女性が軽い口調で海老原に声をかけた。
「また明日には向こうに行くんだよ」
「そうなの? じゃあ、ゆっくり飲みましょうよ」
「先約があるから今度ね」
 海老原も気軽に応じている。
 女性はうっすら笑みを浮かべると、連れの男に顔を向けた。
 エレベーターのドアが開くと、男女が降りるのに続いて良太、最後に海老原が降りた。
 目の前ある黒い重厚なドアの前には、オフィスの前にいたような大柄の欧米系の青年が立っており、男女の顔ぶれをさっと確認するとドアを開けた。
「リッチー、こちら広瀬さんだ」
「いらっしゃいませ」
 リッチーはにっこりとして良太に丁寧な日本語で言った。
 ネットでは見ていたが、実際に足を踏み入れると、天井の高さ、ゆったりとした空気感、居心地のよさそうな雰囲気に包まれた。
 客層はセレブかセレブもどきでも身なりはそれなり、日本人だけでなく欧米人も多くモデルらしき若者もいるが騒ぐような輩はいない。
 すぐにスタッフが良太のコートを受け取り、海老原と良太はカウンターに案内された。
 バーテンダーは年配でかなり年季が入っていそうだ。
 海老原とは目で合図を交わしているのが良太にもわかったが、あとは表情を変えることもなく黙々と手を動かしている。
「俺はスコッチ、ストレートで。広瀬くんは?」
 海老原が聞いた。
「ダイキリをお願いします」
 バーテンダーはきびきびと動き、ホワイトラムとライムジュースなどをシェイクするときれいなダイキリを良太の前に差し出し、スコッチを海老原の前に置いた。
「君はもとは俳優だったんだね?」
 良太がダイキリを一口飲んだところで、いきなり海老原が良太の黒歴史を口にした。
 海老原のことを良太が検索したように海老原もまた良太やおそらく会社のことを調べたようだ。
「いえ、ただの社員です。一度ピンチヒッターでドラマにちょこっと出たことがありますけど、それだけです」
「にしては随分当時は騒がれてたみたいだけど?」
「ほんの一時ですよ。お前にそんな器量はないから有頂天になるなってうちの社長にはきっぱり言われましたし」
 良太にとってはもう思い出したくもない話だ。

 


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