「そうすると俺と君は同じような経験を踏んできたわけだ」
「は?」
どういうことだろうと怪訝な顔で良太は海老原を見た。
「高校の頃、知人に誘われてモデルの仕事をやっていたんだが、それ以外にもエキストラなんかでドラマに出させてもらったりしていた」
海老原はグラスを傾けて少し飲んだ。
良太は海老原のモデル当時の画像などもネットで見たが、若くてプロポーションがよく海外でも十分通用するのではないかとも思ったし、海老原の根強いファンがいるらしく、SNSでやり取りなどしているようだ。
「大学に上がった頃、ドラマのちょい役で出たことがあって、ただ服を着て歩いたり撮影したりするだけじゃなくて、面白い世界と思って、こっちの世界でやっていければなんてね」
モデルから俳優に転向したなんていくらでもある話だ。
仕事を辞めた今でもファンがいるくらいだから、海老原ならいくらでも俳優としてやっていけたのではないかと、良太は思う。
あ、でも、使いづらいとみなされたとか、秋山さん、言ってたな。
そういや、秋山さん、早めに店に行ってみるとか言ってたけど、どこかにいるんだろうか。
さり気にあたりを見たが、良太の視界にはいなかった。
「そこでそのドラマのプロデューサーに、俳優でやっていきたいとか何とか言ったのさ」
プロデューサー?
何か、嫌な気配が………。
「ちょっと人気があるからっていい気になるなよ。演技のえの字も知らないで俳優でやっていくとか、百歩譲ってもお前はバタ臭すぎる。役柄も限られるし使いづらい。思い上がりも大概にしろ!」
げえええええええ!
良太はそんな科白を吐きそうなプロデューサーをひとり、よく知っている。
「って、いきなりガツンとアッパーカットをくらったわけだ。君んとこの社長に」
「え………」
大当たりじゃん、と良太は心の中でがっくり項垂れる。
工藤が気をつけろとか言ってたわけだよ。
んじゃ、最初っから、この仕事ダメダメじゃんよ。
「俺は意気消沈てより、勝手なこと言いやがって今に見てろ、とか思っちゃってね、それからいくつかドラマのちょい役をもらって、自分では努力したつもりでいたんだが、最後に出たドラマの監督に、ガイジンブームなんだけどね、ドラマではなかなか役柄が難しくてね、とか似たようなことを言われて、俳優は諦めたよ」
海老原はそう言ってグラスの酒を飲み干した
「ああ、いや、うちの工藤は口が悪いのが普通ってくらいな昭和なオヤジで、俺なんか、お前の頭にはヌカミソでも詰まってるのか、くらいクソミソに何度も言われてますし、あの人の毒舌なんか右から左へで聞き流しとけばいいんですよ」
工藤にどやしつけられたという当時の海老原を思うと、良太も同情しないではいられない。
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