もしか、工藤への憂さを俺ではらそうとか?
「それに、海老原さんなら、日本なんて言わないでそれこそアメリカとかグローバルに考えれば、俳優を諦めなくてもよかったのでは?」
すると海老原はクククと笑う。
「なるほど、よくあの男のところで何年もやってられるとは思っていたが、君は面白いね」
「え、はあ………」
「諦めたってことは、それだけのことだったってことだよ。むしろきっぱりこっちの事業に鞍替えできたし、仕事が面白くなった」
「確かに、それこそグローバルなご活躍ですよね」
「まあ、最初は親の懐で相撲を取っていただけだがね。しかし、君のとこの社長もよくやるよな。身内にご立派なヤクザがいるってのに」
その一言にはいつも良太はカッとなって頭に血が上る。
「そっちとは縁を切っていますから、工藤はヤクザじゃないんで」
ぐっと自分を抑えて絞り出すように口にした言葉は強くむしろクールだった。
すると海老原は残っていたダイキリを空ける良太をじっと見据えた。
「ほんと、君は面白い」
良太は思わず眉を顰めた。
その時、入り口の方からカウンターに近づいてくる男が見えた。
「レオ!」
少し切羽詰まった様相で足早に海老原に近づいたのは若い金髪の青年だ。
「どうして電話にでてくれないんだ?」
英語をしゃべっているし、アメリカ人っぽい雰囲気だ。
「お前とはもう終わったはずだが?」
海老原も英語で答えたが、良太はその内容につい聞き耳を立てた。
プライベートだけど何やら訳ありってか?
「俺はそんなつもりはないよ! レオ」
ちょっと涙目で訴える少し興奮状態の青年はきれいな顔をしたモデル風だ。
良太は二人の話から気をそらすべくあらためてカウンターや店内を見回した。
テーブルやソファなどもちゃんと吟味されたものだろう、さほど歴史はないはずの店だが、その佇まいは古くから続いているかのような貫禄さえ感じられる。
カウンターの右奥にいた男が席を立つと、その向こうに秋山を見つけた。
気配を消すのがうまい男だ。
「失礼ですが、お尋ねしてもいいですか?」
良太はまだ青年と何やら険悪なムードで話をしている海老原を横目に、年配のバーテンダーに声をかけた。
「このお仕事は長くされているんですか?」
バーテンダーが頷いたので、良太は尋ねた。
「もう四十数年になります」
落ち着いた声でバーテンダーは答えた。
この人の存在もこの店の雰囲気の大きな要素になっているのだろうと良太は納得した。
「嫌だ、別れたくない!」
バーテンダーに何かまた聞こうと思っていた矢先、海老原とぼそぼそとやり取りをしていた青年が少し声を上げた。
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